旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2025年3月13日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

神々の国 島根・石見の旅 ~②山間に佇む山陰の小京都、津和野散策

白壁に沿った通りに水路がある津和野の町には、江戸時代の風景が今も残る。zoom
白壁に沿った通りに水路がある津和野の町には、江戸時代の風景が今も残る。
山々に囲まれ、ひっそりと佇むようにある小さな町・津和野。“山陰の小京都”と呼ばれるこの町には、 およそ400年前の江戸時代の景色が随所に残っています。「石見の旅」第2回では、古きよきもののなかに、現代の暮らしが息づく津和野の町歩きをご紹介します。

雲海に浮かぶ山城・津和野城址から箱庭のような景色を一望
津和野の全景を眺めたいと思ったら、まず津和野城址へ。山間を縫うように流れる津和野川に沿って広がる町並みを一望できる、標高362mの絶景スポットです。案内してくれたのは、「津和野の日常を、ツアーに」をコンセプトに、観光とはちょっと異なる日常目線で町案内をしてくれる「津和野体験Yu-na」代表の岡野優衣さん。

津和野城は鎌倉時代に築かれた山城をベースに、江戸時代に完成。中世と近世の城が一体となった、全国でも数少ない山城なのだそう。麓からは観光リフトで中腹までアクセスし、かつて天守閣があった本丸までハイキング気分を楽しみながら20~30分歩きます。途中、いくつかのポイントで岡野さんが見どころとともに、石垣に隠された歴史やトリビアを紹介してくれます。津和野城は城下町から急傾斜でそびえ立っていることが特徴。威風堂々としたたたずまいに圧倒され、重機がなかった時代、石垣を緻密に積み上げた当時の技術力と人力を思うと、感服せずにはいられません。お城の建物は残っていませんが、VRポイントでスマホからQRコードを読み込めば、江戸時代の威容をバーチャル画像で楽しむことができるので、ぜひ試してみてください。
津和野城址は箱庭のような街を一望できるスポット。かつてこの場所にあった津和野城は日本で最大規模の山城だったのだそう。途中までリフトでアクセスでき、VRスポットでQRコードを読み込めば、江戸時代の天守閣が浮かびあがる。zoom
津和野城址は箱庭のような街を一望できるスポット。かつてこの場所にあった津和野城は日本で最大規模の山城だったのだそう。途中までリフトでアクセスでき、VRスポットでQRコードを読み込めば、江戸時代の天守閣が浮かびあがる。
かつて本丸があった場所からは、正面にそびえる標高907mの青野山とともに、石見地方独特の赤瓦が連なる城下町を一望できます。ここから望む光景をうたったのが、さだまさしさんの『案山子』。岡野さんがスマホにダウンロードした曲を聴かせてくれると、城跡から見下ろす光景と歌詞が確かにぴったり! まるで映画の一コマを見ているような気分になりました。
津和野城址を訪れるなら、午前中早めの時間がおすすめ。運がよければ、雲海に浮かび上がる幻想的な姿を見ることができます。
●津和野城址
https://tsuwano-bunka.net/cultural-property/detail_tsuwano-jo/

朱色の鳥居が美しい「太皷谷稲成神社」は、日本でただ一つの特別なお稲荷さん
津和野城址の観光リフト乗り場から、朱色の千本鳥居で知られる「太皷谷稲成神社」までは徒歩数分。日本五大稲荷の一つで、さらに“稲成”と表記するのは全国のお稲荷さんでも唯一ここだけ。“成”の文字には願望成就の願いが込められ、その御利益にあずかるため各地から多くの参拝者が訪れています。狐の好物の油揚げをお供えしてお参りし、山道の参道に連なる朱色の鳥居をくぐれば、清々しい気持ちになるとともに、なんとなく願い事が叶うような気持になるから不思議です。
山肌を縫うように朱色の鳥居が続く太皷谷稲成神社。境内では油揚げとロウソクでお参りを。zoom
山肌を縫うように朱色の鳥居が続く太皷谷稲成神社。境内では油揚げとロウソクでお参りを。
●太皷谷稲成神社
https://taikodani.jp/
●津和野体験Yu-na
https://yuna-tsuwano.jp/

堀割と白壁が美しい城下町を歩く
江戸時代、津和野藩の城下町として栄えた津和野。町の中心部には江戸時代から現在まで、さまざまな時代の痕跡が残ります。白壁が連なり、堀割に鯉が泳ぐ象徴的な風景を楽しめるのが殿町通り。昔ながらの城下町に、ゴシック建築の教会がひときわ目を引きます。通りを一つ挟んだ本町通りは、商家が栄えた場所。江戸時代から続く薬種問屋や酒蔵、古い建物を利用したセレクトショップやカフェが並び、つい立ち止まってしまいます。わずか500~600mの間で、さまざまな風景を楽しめることも津和野の魅力。気になる建物やお店をのぞいていると、あっという間に時間が過ぎてしまうので、たっぷりと時間をかけて散策したい場所です。

そんな津和野の町で、地元の人も良く訪れているのが「cafe&hostel TMC」。お米、野菜、お茶などを育てる生産者や醸造所などと協働したメニューを味わえます。カフェの2階はホステルスタイルの宿泊施設。目の前を流れる津和野川を眺めながら過ごせるリビング&ダイニングがあり、友人同士や家族で貸し切って利用することも可能。リゾケーションや暮らすように過ごす旅にももってこいですよ。
●cafe&hostel TMC
鹿足郡津和野町後田ロ60-23
TEL0856-73-7400
https://www.tmc-tha.com/cafe-hostel
左/殿町通りの「津和野カトリック教会」と、商家が続く本町通り。右/「cafe&hostel TMC」は、1階がカフェ、2階がホステル。カフェでは地元食材のランチメニューを味わえる。zoom
左/殿町通りの「津和野カトリック教会」と、商家が続く本町通り。右/「cafe&hostel TMC」は、1階がカフェ、2階がホステル。カフェでは地元食材のランチメニューを味わえる。
絶景のティーテラスで、ニャンコのもてなしとともに煎茶体験
山間の盆地にある津和野は、青野山の火山活動によって形成された大きなカルデラ内にあります。水はけがよい火山灰土壌と、日本海に注ぐ高津川の清流を利用し、古くからお茶の栽培が行われて来た、県下有数の茶どころです。この地で四代にわたって茶園を営む「秀翠園」では、茶畑を一望できるテラスで日本茶の美味しい淹れ方を学びながら飲み比べができる煎茶体験を行っています。茶畑を吹き抜ける心地よい風に吹かれながら、お茶とお菓子を味わう90分。時々、看板ニャンコのもてなしもあり、ほっこりと癒されること間違いなし。
お土産におすすめなのは、特産茶の「まめ茶」。カワラケツメイというマメ科の実をサヤごと煎って作るお茶は、鉄分とミネラルを豊富に含む健康茶。ほうじ茶のように香ばしくさっぱりした飲み口は、食後にぴったり。カフェインを含まないため、リラックスしたい時や寝る前に飲むとよさそうです。
茶畑とその向こうにそびえる青野山を見渡せる「お茶テラス」で煎茶体験ができる「秀翠園」。看板ネコのおもてなしも楽しみ。zoom
茶畑とその向こうにそびえる青野山を見渡せる「お茶テラス」で煎茶体験ができる「秀翠園」。看板ネコのおもてなしも楽しみ。
●秀翠園
鹿足郡津和野町直地142-1
TEL0856-72-2204
※「煎茶体験」は前日までに要予約。90分・1人4,500円
http://mamecha.jp/

津和野の魅力をぎゅっと凝縮した、町で唯一の温泉宿
古きよきものを守る気質が根づく津和野。約160年前の幕末、津和野藩の名所とともに、自然、伝統芸能、風俗などをまとめたものに「津和野百景図」という100枚の記録画があり、半数以上の風景が現在も当時のまま残っています。その美しい風景を巡る旅を提案してくれるのが、津和野で唯一の温泉宿「ゆとりろ津和野」。ロビーには百景図に描かれた場所や観光スポットを紹介する100枚のカードが並び、自由に選んで自分だけのガイドブックを作ることができます。
ぜひ連泊して過ごしたい津和野唯一の温泉宿「ゆとりろ津和野」。夕食は地域の食材を使った創作会席、大浴場のほか客室のお風呂もゆったりサイズ。「津和野百景図」をもとに町内を案内するカードが並ぶロビーでは、お好みの飲み物をセルフで味わえる。zoom
ぜひ連泊して過ごしたい津和野唯一の温泉宿「ゆとりろ津和野」。夕食は地域の食材を使った創作会席、大浴場のほか客室のお風呂もゆったりサイズ。「津和野百景図」をもとに町内を案内するカードが並ぶロビーでは、お好みの飲み物をセルフで味わえる。
郷土料理を現代向けにアレンジした食事も、百景図にまつわる食材を使ったもの。地元農家が栽培する野菜やコメをはじめ、できる限り地域の食材を使用しているのだそう。夕食の創作会席とともに、お米の食べ比べができる朝食も楽しみ。津和野にある3軒の酒蔵と、県内各地の日本酒を酒蔵巡りのように味わえる利き酒スタンドは、日本酒好きにはたまりません。
日程に余裕があれば、ぜひとも2~3日連泊し、ゆったり過ごしてみてください。山口県北部の萩にも近く、山陰の二都をじっくり楽しむ旅の拠点にもおすすめりです。
●ゆとりろ津和野
鹿足郡津和野町後田ロ82-3
TEL0570-031-085
https://yutorelo-tsuwano.com/

津和野は小さな町ですが、時間をかけて巡れば巡るほど、じわじわと味わいが深まってきます。古い町並みにいくつもの時代の風景が積み上げられていて、そのなかに人々の日常の暮らしがあることも大きな魅力です。

「石見の旅」の第3回では、神話の時代から連綿と受け継がれてきた酒造りの歴史を彷彿させる、酒蔵をご紹介します。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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