旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年1月27日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

人けのない階段から歌声、その主はタイタニック沈没事故の犠牲者? カナダの世界遺産でクルーズ体験【4】

△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの外観(2023年9月、筆者撮影)zoom
△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの外観(2023年9月、筆者撮影)

(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【3】」からの続き)
 「階段から歌声が聞こえたものの、そこには誰もいなかったそうです」。カナダの首都オタワの怪奇スポットを巡るツアーで、ガイドのモニカさんがそう耳打ちしたのが世界遺産のリドー運河のほとりにそびえる城のような風格あふれる外観の名門ホテル「ザ・フェアモント・シャトー・ローリエ」での出来事だった。怪談の舞台として再び登場した階段にいた「声の主」と目されているのは、豪華客船「タイタニック」の沈没事故で犠牲となった鉄道会社社長だとか…。

△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエのロビー(23年9月、筆者撮影)zoom
△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエのロビー(23年9月、筆者撮影)

 【ザ・フェアモント・シャトー・ローリエ】オタワを代表する名門ホテルで、1912年に開業した。建物は1981年にカナダの歴史的建造物に指定されており、33室のスイートルームを含めて426室の客室を備えている。現在はフランスのホテル大手、アコーホテルズのグループ会社が運営している。南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)撤廃闘争を率いた故ネルソン・マンデラ元同国大統領、映画「スター・ウォーズ」シリーズで「レイア姫」を演じたアメリカ人俳優の故キャリー・フィッシャーさん、カナダ出身の有名シンガーソングライターのブライアン・アダムスさんら多くの著名人が宿泊した。

△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの正面にある旧オタワ・ユニオン駅舎(23年9月、筆者撮影)zoom
△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの正面にある旧オタワ・ユニオン駅舎(23年9月、筆者撮影)

 ▽「バリトンの澄んだ美声」
 「バリトンの澄んだ美声だった」との証言がある声の主は、ホテルを建設したグランド・トランク鉄道(現在のカナディアン・ナショナル鉄道)の社長だったチャールズ・ヘイズではないかと想像されている。
 現在のVIA鉄道カナダのオタワ駅は郊外にあるが、当時はザ・フェアモント・シャトー・ローリエの正面に旧オタワ・ユニオン駅が構えていた。カナダ東部モントリオールなどと結ぶ列車の鉄道利用者らの宿泊を見込んでホテルが建てられた。旧駅舎は現存しており、近くのカナダ連邦議会議事堂が2019年から31年までの予定で大規模改修中のため現在は議会下院が暫定的に入居している。

△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエのアーチ状の天井が特徴的な廊下(23年9月、筆者撮影)zoom
△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエのアーチ状の天井が特徴的な廊下(23年9月、筆者撮影)

 ▽開業祝賀会が延期
 ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの開業祝賀会は1912年4月26日に予定されていたが、先延ばしになった。というのもヘイズが帰らぬ人になってしまったからだ。
 タイタニックには乗客と乗員合わせて2224人が乗り込んでいたが、救命ボートが足りなかったため1513人もの犠牲者が出てヘイズもその1人だった。

 ▽「開業を心待ちに」とも
 ザ・フェアモント・シャトー・ローリエは高級ホテルのため、怪奇スポットを巡るツアーの受け入れに積極的ではないのだろう。ガイドのモニカさんがこの話をしたのはリドー運河沿いのあまり人けがない遊歩道だった。
 怪談の舞台が階段だったためか私たちを階段に座らせると、モニカさんが「ヘイズはホテルの開業を心待ちにしていたと言われている」と指摘した。だからこそ「生前に目の当たりにできなかったホテルの開業を、自身の歌声で祝い続けているのではないか」という見方があるのだそうだ。ただし、タイタニックの沈没現場までの距離は直線距離で2千キロを超えていることもあり、話半分で聞いた方が良いとは思う。

△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの外観(23年9月、筆者撮影)zoom
△ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの外観(23年9月、筆者撮影)

 ▽階段に怪談あり!?
 「階段から歌声」の怪談をする前に、モニカさんは「この中でザ・フェアモント・シャトー・ローリエに宿泊中の方はいますか?」と質問した。誰も手を上げなかったのを確認して「ああ良かった、この話をすることで安心して眠れなくなると困りますので」と話した。
 実を言うと私は以前のオタワ訪問で2回宿泊した。古い建物のため客室もややくたびれている印象だったが、「出たあ!」という体験はしていない。よって驚愕体験が待ち受けていることは保証しかねるが、「階段に怪談あり」というのは確かなようだ。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【5】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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