旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2023年12月15日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「日本に親戚は?」と尋ねたくなる“激似”電車 自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア【7】

△SEPTAのノリスタウン高速線の電車N5(2022年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△SEPTAのノリスタウン高速線の電車N5(2022年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 (「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【6】」からの続き)
アメリカ(米国)東部ペンシルベニア州フィラデルフィアの近郊には南東ペンシルベニア交通局(SEPTA)の「ノリスタウン高速線」というまるで高速鉄道のような路線がある。仰々しい名称に反して1両だけのかわいい外観の電車が行き来しており、日本の中堅私鉄の電車と“激似”だけに「日本に親戚がいるの?」と尋ねたくなる。

△ノリスタウン高速線の路線図(22年1月2日、筆者撮影)zoom
△ノリスタウン高速線の路線図(22年1月2日、筆者撮影)

 ▽開業から116年の“老舗”
 ノリスタウン高速線はSEPTAの郊外電車「マナヤンク・ノリスタウン線」と接続するノリスタウン交通センター駅と、地下鉄「マーケット・フランクフォード線」や路面電車と乗り換えられる69番街交通センター駅の21・6キロを結ぶ。1907年の開業から116年が経過した“老舗”だ。

△ノリスタウン高速線のN5の車内(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△ノリスタウン高速線のN5の車内(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 ▽日中はほぼ30分に1本
 沿線にはフィラデルフィア近郊の落ち着いた住宅街が広がっており、原則として午前4時台から翌日午前1時台まで毎日運行している。平日の日中ならばほぼ30分に1本走っている。

△神戸電鉄3000系(12年12月31日、神戸市で筆者撮影)zoom
△神戸電鉄3000系(12年12月31日、神戸市で筆者撮影)

 ▽神鉄のそっくりさん
 ノリスタウン高速線を走る1両だけの電車「N5」は銀色の車体で、先頭部に大きな2枚窓と二つの円形ヘッドライトを備えている。これらの特色が兵庫県を走る中堅私鉄の神戸電鉄(神鉄)の電車「3000系」と一致しており、見た目が「そっくりさん」なのだ。

△SEPTAのシルバーライナー5と、高架上のN5(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△SEPTAのシルバーライナー5と、高架上のN5(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 ▽まるで路面電車
 ノリスタウン高速線は線路脇にある「第三軌条」から電気を集めて走っており、電圧は直流630ボルト。これに対し、神鉄3000系は架線から集電しており、電圧は直流1500ボルトだ。
 69番街交通センター駅でノリスタウン高速線に乗車し、N5のややくたびれたビニール製の表皮に覆われた方向転換が可能なクロスシートに腰かけた。
 軽快な音を立てながら走り出す様子はまるで路面電車のようだ。駅間距離が短く、下車したい駅に着く前に壁際のボタンを押して運転士に伝えるのも路面電車と同じだ。途中駅は20駅あるものの、プラットホームに利用者がおらず、下車ボタンが押されなかった駅は通過する。

△スクールキル川に架かる鉄橋を渡るノリスタウン高速線のN5(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△スクールキル川に架かる鉄橋を渡るノリスタウン高速線のN5(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 ▽いつまで頑張れるか
 住宅が点在する雑木林の中を進み、スクールキル川に架かる鉄橋を渡ると終点のノリスタウン交通センターに着いた。
 1973年に登場した神鉄3000系は老朽化が進み、一部は既に廃車になっている。ノリスタウン高速線の1両だけで走るかわいい電車もやや年季が入っているが、いつまで頑張れるだろうか。
 (次回で本シリーズ最終回!シリーズ「自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア」【8】に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞ)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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