旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2023年11月12日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「移動の自由」を支える交通網、「カワサキさん」も活躍 自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア【5】

△「ダイヤモンドクロッシング」を通る川崎重工業が製造したSEPTAの路面電車9000形(2022年1月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△「ダイヤモンドクロッシング」を通る川崎重工業が製造したSEPTAの路面電車9000形(2022年1月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 (「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【4】」からの続き)
 アメリカ(米国)の自由の象徴となっている「自由の鐘」で有名な東部ペンシルベニア州フィラデルフィアは、優れた公共交通機関を抱える米国都市ランキングで上位10位以内の常連となっている交通網が「移動の自由」も支えている。ニューヨーク都市圏の地下鉄と近郊電車、首都ワシントンの地下鉄などと同じく「カワサキさん」こと川崎重工業が製造した電車が活躍している。

△川重が製造したSEPTAの路面電車100形(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)zoom
△川重が製造したSEPTAの路面電車100形(22年1月2日、フィラデルフィア近郊で筆者撮影)

 ▽9月公表の調査で米国6位に
 自動車社会の米国でありながら、鉄道やバスの路線が網の目のように張り巡らされているフィラデルフィア都市圏は公共交通機関だけであらゆる場所を訪れることができる。
 米国メディアなどが実施する公共交通機関ランキングでは通常トップテンに入り、「インサイダーモンキー」が2023年9月に公表した「最も優れた公共交通機関がある米国都市」でも6位だった。フィラデルフィアのことを「街じゅうを動き回るのに都市圏鉄道、路線バス、地下鉄、そして人気がある路面電車を利用するのが簡単で便利な方法だ」と評価した。

△フィラデルフィア中心部の地下区間を走るSEPTAの路面電車9000形(22年4月10日、筆者撮影)zoom
△フィラデルフィア中心部の地下区間を走るSEPTAの路面電車9000形(22年4月10日、筆者撮影)

 ▽「カワサキさん」の米国での先駆け
 フィラデルフィア都市圏の公共交通機関の大部分を運行しているのが南東ペンシルベニア交通局(SEPTA)だ。特に注目度が高いのは路面電車で、1980年に登場した1両だけで走る白い電車は川重が米国で最初に受注した車両郡だ。
 川重が手がけた主力の「9000形」は運転台が通常の進行方向にしかなく、反対側は客室の座席になっている。日本の路面電車は両側に運転席があるだけに、どのように折り返すのか疑問に思われるかもしれない。

△川重が製造したSEPTAの地下鉄用車両B4(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)zoom
△川重が製造したSEPTAの地下鉄用車両B4(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)

 ▽路面電車でも地下へ
 運行する路線では起点と終点の停留場にループがあるため、そのままループを回って折り返すことができるのだ。フィラデルフィア中心部の起点となっている13丁目停留場で大きな曲線を描いたループを通り、元の方向へ進む。だが、都心部には用地がないため、SEPTAの路面電車は中心部の区間では地下を駆ける。
 近郊区間では貨物列車が走る鉄道路線と平面交差をする「ダイヤモンドクロッシング」があり、貨物列車が通る際には路面電車も踏切待ちをする。日本で現役のダイヤモンドクロッシングは名古屋市と松山市、高知市の3カ所しかない。

△B4の車内にある行き先表示(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)zoom
△B4の車内にある行き先表示(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)

 ▽両運転台の電車も
 同じく川重が製造し、前照灯の部分のデザインを除けば外観が9000形と比較的似ている「100形」は両側に運転台を備えている。終点が行き止まりになっており、ループを備えていない近郊の路線で走っている。よって、日本の路面電車と同じく折り返せるように両側に運転台を設けている。

△B4に取り付けられた川重の企業ロゴ(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)zoom
△B4に取り付けられた川重の企業ロゴ(22年4月10日、フィラデルフィアで筆者撮影)

 ▽地下鉄には“ごっつい顔つき”の車両
 川重の車両は、SEPTAの2路線ある地下鉄の一つ「ブロードストリート線(大通り線)」でも活躍している。1982年に登場したステンレス製の車両「B4」だ。
先頭部は上部に計10個の丸いランプを備えた“ごっつい顔つき”で、窓枠の周囲は路線色であるオレンジ色のラインを施している。
先頭と側面、車内にある行き先表示は新しい車両に多く見られる発光ダイオード(LED)でも、以前主流だった方向幕でもない。終点の「ファーン・ロック」(正式な駅名はファーン・ロック・トランスポーテーション・センター」や起点の「NRG」、各駅停車を意味する「LOCAL」などと記された文字を点灯して知らせるのだ。
SEPTAの鉄道には路面電車、地下鉄の他にも発達した近郊鉄道網がある。日本の線路上ではお目にかからないユニークな電車が走っており、次回ご紹介したい。
 (「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【6】」に続く)
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共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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