(「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【4】」からの続き)
アメリカ(米国)の自由の象徴となっている「自由の鐘」で有名な東部ペンシルベニア州フィラデルフィアは、優れた公共交通機関を抱える米国都市ランキングで上位10位以内の常連となっている交通網が「移動の自由」も支えている。ニューヨーク都市圏の地下鉄と近郊電車、首都ワシントンの地下鉄などと同じく「カワサキさん」こと川崎重工業が製造した電車が活躍している。
▽9月公表の調査で米国6位に
自動車社会の米国でありながら、鉄道やバスの路線が網の目のように張り巡らされているフィラデルフィア都市圏は公共交通機関だけであらゆる場所を訪れることができる。
米国メディアなどが実施する公共交通機関ランキングでは通常トップテンに入り、「インサイダーモンキー」が2023年9月に公表した「最も優れた公共交通機関がある米国都市」でも6位だった。フィラデルフィアのことを「街じゅうを動き回るのに都市圏鉄道、路線バス、地下鉄、そして人気がある路面電車を利用するのが簡単で便利な方法だ」と評価した。
▽「カワサキさん」の米国での先駆け
フィラデルフィア都市圏の公共交通機関の大部分を運行しているのが南東ペンシルベニア交通局(SEPTA)だ。特に注目度が高いのは路面電車で、1980年に登場した1両だけで走る白い電車は川重が米国で最初に受注した車両郡だ。
川重が手がけた主力の「9000形」は運転台が通常の進行方向にしかなく、反対側は客室の座席になっている。日本の路面電車は両側に運転席があるだけに、どのように折り返すのか疑問に思われるかもしれない。
▽路面電車でも地下へ
運行する路線では起点と終点の停留場にループがあるため、そのままループを回って折り返すことができるのだ。フィラデルフィア中心部の起点となっている13丁目停留場で大きな曲線を描いたループを通り、元の方向へ進む。だが、都心部には用地がないため、SEPTAの路面電車は中心部の区間では地下を駆ける。
近郊区間では貨物列車が走る鉄道路線と平面交差をする「ダイヤモンドクロッシング」があり、貨物列車が通る際には路面電車も踏切待ちをする。日本で現役のダイヤモンドクロッシングは名古屋市と松山市、高知市の3カ所しかない。
▽両運転台の電車も
同じく川重が製造し、前照灯の部分のデザインを除けば外観が9000形と比較的似ている「100形」は両側に運転台を備えている。終点が行き止まりになっており、ループを備えていない近郊の路線で走っている。よって、日本の路面電車と同じく折り返せるように両側に運転台を設けている。
▽地下鉄には“ごっつい顔つき”の車両
川重の車両は、SEPTAの2路線ある地下鉄の一つ「ブロードストリート線(大通り線)」でも活躍している。1982年に登場したステンレス製の車両「B4」だ。
先頭部は上部に計10個の丸いランプを備えた“ごっつい顔つき”で、窓枠の周囲は路線色であるオレンジ色のラインを施している。
先頭と側面、車内にある行き先表示は新しい車両に多く見られる発光ダイオード(LED)でも、以前主流だった方向幕でもない。終点の「ファーン・ロック」(正式な駅名はファーン・ロック・トランスポーテーション・センター」や起点の「NRG」、各駅停車を意味する「LOCAL」などと記された文字を点灯して知らせるのだ。
SEPTAの鉄道には路面電車、地下鉄の他にも発達した近郊鉄道網がある。日本の線路上ではお目にかからないユニークな電車が走っており、次回ご紹介したい。
(「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【6】」に続く)
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