旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年2月18日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「最も美しい村」の小ぶりな建物、かつては地域最大の百貨店 カナダの世界遺産でクルーズ体験【7】

△かつて地域最大の百貨店だったとされる石造りの建物(2023年9月、カナダ東部オンタリオ州メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)zoom
△かつて地域最大の百貨店だったとされる石造りの建物(2023年9月、カナダ東部オンタリオ州メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)

(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【6】」からの続き)
 カナダ東部オンタリオ州にある世界遺産のリドー運河沿いにあり、「カナダで最も美しい村」を標榜するメリックビル・ウルフォード村に立ち寄った。この村にある1863年完成の3階建ての小ぶりな石造り建物はかつて「カナダのモントリオールとアメリカ(米国)のシカゴの間の地域で最大の百貨店だった」とされるから驚かされる。

△石造りの建物の1階に入居するキャラメル販売店(23年9月、メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)zoom
△石造りの建物の1階に入居するキャラメル販売店(23年9月、メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)

 【メリックビル・ウルフォード村】カナダの首都オタワの近郊にある村。米国東部マサチューセッツ州から入植したウィリアム・メリックが1794年に見つけて開拓した。カナダ統計局の2021年の調査によると、人口は3135人。メリックビル商工会議所のイブ・グランメートル書記長は、オタワの政府や企業を退職後に移住した村民が多く「有名企業の元トップも住んでいる」と明かした。村内には教育水準が高い学校があり「子育てのために村内に移住したり、子どもを学校の寮などに入れたりする家庭もある」という。

△セントローレンス通りから見たメリックビル・ウルフォード村の商業地。奥が石造りの建物(23年9月、筆者撮影)zoom
△セントローレンス通りから見たメリックビル・ウルフォード村の商業地。奥が石造りの建物(23年9月、筆者撮影)

 ▽目抜き通りの交差点に位置
 北米の広大な地域で最大の百貨店だった建物はメリックビル・ウルフォード村の商業地が広がる目抜き通りのセントローレンス通りと、メイン通りの交差点にある。
 かつてはオタワにある企業で勤務し、退職後にメリックビル・ウルフォード村に移ったというメリックビル商工会議所のイブ・グランメートル書記長は「この建物はモントリオールとシカゴの間の地域で最大の百貨店だったと言われているんだ」と教えてくれた。
 カナダ東部ケベック州モントリオール都市圏は人口が367万5219人(カナダ統計局の2021年調査)と、トロント都市圏(564万7656人)に次いでカナダで2番目に多い。シカゴ都市圏は944万1957人(米国統計局の22年調査)と米国中西部で最大だ。

△メリックビル・ウルフォード村にあるリドー運河の閘門(23年9月、筆者撮影)zoom
△メリックビル・ウルフォード村にあるリドー運河の閘門(23年9月、筆者撮影)

 ▽「地域最大」が物語ること
 ともに大都市のモントリオール、シカゴにある巨大百貨店には歯が立たないにしても、挟まれた広大な地域で最大の百貨店が人口3135人(21年)の小さな村にあったとされるのは驚きだ。完成した1863年は、カナダが「建国」と位置付けている連邦結成の4年前だ。「地域最大の百貨店」がメリックビル・ウルフォード村にあったという史実は、近隣にある現在の首都のオタワはまだ寒村の一つだったことを物語る。
 ただ、村の規模に比べると“巨艦店”だった百貨店は大成功を収めるには至らずに閉鎖している。建物は図書館や銀行、ダンスホール、オフィス、アパートなどに用途を変えてきた。現在は1階に女性用衣料・雑貨店とキャラメル販売店、ホテルが運営する飲食店が軒を連ねており、2階と3階にはホテルの客室などがある。

△メリックビル・ブロックハウスの建物(23年9月、メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)zoom
△メリックビル・ブロックハウスの建物(23年9月、メリックビル・ウルフォード村で筆者撮影)

 ▽国定史跡のブロックハウス
 かつては村民自慢の百貨店だった建物から歩いて2分の場所にリドー運河があり、水位が異なる区間を船舶で航行できるようにするためのゲート「閘門(こうもん)」があった。その脇にそびえるのが、要塞「ブロックハウス」のメリックビル・ブロックハウスだ。カナダ国定史跡に指定されており、メリックビル・ウルフォード村の代表的な観光スポットの一つになっている。
 メリックビル・ブロックハウスは、カナダを植民地化していたイギリス(英国)が米国による侵攻に備えて要塞として使うために1832~1833年に建てた。1826年から1832年にかけて全長202キロのリドー運河を建設するとともに、沿岸には防衛の拠点として計4つのブロックハウスを設けた。

△メリックビル・ウルフォード村で見かけたシマリス。リスヴェルの記事には、おあとがよろしいようで(23年9月、筆者撮影)zoom
△メリックビル・ウルフォード村で見かけたシマリス。リスヴェルの記事には、おあとがよろしいようで(23年9月、筆者撮影)

 ▽現存する中で2番目の大きさ
 うち2階建ての建物は石灰岩を積み上げて築かれ、三角屋根はトタン板で覆ったメリックビル・ブロックハウスは「リドー運河沿いにある中で最大で、カナダに現存しているブロックハウスの中で2番目に大きい」(カナダ国立公園局)という。
 要塞としての役目を終えたブロックハウスは現在、博物館として使われている。春から秋にかけて開館しており、リドー運河の歴史を伝える展示や、村内でかつて使われていた家具や農具などを見学できる。
 建物に入る扉の手前には木製の橋が架けられており、運営に携わるボランティアから「足元を見てください。ブロックハウスの周囲には堀を設けており、敵が来た時には橋を落として入れないように造られていました」と説明を受けた。
 幸いなことに、私が入ろうとしても目の前で橋を落とされることはなかった。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【8】」からの続き)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook