旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年2月10日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

滝が流れる首都、橋の反対側はフランス語中心の世界 カナダの世界遺産でクルーズ体験【6】

△カナダ・ケベック州から見たオタワ川とカナダ連邦議会議事堂(2023年9月、筆者撮影)zoom
△カナダ・ケベック州から見たオタワ川とカナダ連邦議会議事堂(2023年9月、筆者撮影)

(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【5】」からの続き)
 カナダの首都でありながら緑が豊かな東部オンタリオ州オタワを手軽に周遊する方法の一つがサイクリングだ。中心部には自転車道が整備されており、安全に走れる。私が参加したのは2時間かけて名所を巡るツアーで、中心部にある滝を間近で眺めたり、橋を渡ってフランス語が主言語となっている隣接州のケベック州を訪れたりした。

△1カナダドル旧紙幣の裏面のイラスト(23年9月、ケベック州で筆者撮影)zoom
△1カナダドル旧紙幣の裏面のイラスト(23年9月、ケベック州で筆者撮影)

 【カナダの言語政策】カナダ連邦は1969年に施行された公用語法で英語とフランス語の2カ国語を公用語としている。ただ、全部で10ある州のうち2カ国語を公用語としているのは東部ニューブランズウィック州だけで、ケベック州はフランス語を公用語としており、他の8州は英語を公用語としている。カナダ政府が2016年に国民に対して実施した統計によると、英語を主言語としている人が56・0%、フランス語は21・4%で、先住民はそれぞれの言語を主に使うことが多い。

△スパーキーさん(左から2人)とサイクリングツアーの参加者(23年9月)zoom
△スパーキーさん(左から2人)とサイクリングツアーの参加者(23年9月)

 ▽心霊ツアーの事務所の「お向かいさん」
 自転車の貸し出しと、名所を巡るツアーを実施しているのが自転車店「エスケープ・ツアーズ・アンド・レンタルズ」だ。心霊スポットを巡るツアーに参加した「ザ・ホーンテッド・ウオーク」の事務所と同じスパークス通りにある「お向かいさん」だ。
 前日夜に心霊ツアーに参加していたため、自転車店へ歩いて行く途中でザ・ホーンテッド・ウオークの事務所に向かって反射的に会釈していた。事務所は地下にあるので見えるはずがないが、もしかするとツアーで経験値を上げた従業員には透視能力が備わっているのかもしれない。知らんけど。

オタワの滝と、オタワ川を周遊する観光船(23年9月、オンタリオ州で筆者撮影)zoom
オタワの滝と、オタワ川を周遊する観光船(23年9月、オンタリオ州で筆者撮影)

 ▽電動アシスト自転車で出足快調
 自転車店で貸してくれたのはスポーツタイプの電動アシスト自転車だ。試乗すると、ペダルを軽く踏むだけで快調な出足を味わえた。参加したツアーはオタワ周辺の名所を巡る約12キロのコースで、所要時間は約2時間。参加料金は季節によって変動し、1人当たり49・95カナダドル(約5500円)からだ。
 ガイドの名前はスパーキーさん。自己紹介の際に「楽しい名前じゃなくちゃね!」と付け加えていただので、店舗があるスパークス通りから命名したニックネームのようだ。スパーキーさんが先導し、私を含めた4人の参加者は隊列になって自転車をこぎ出した。
 最初の案内場所の連邦議会議事堂を経て、オタワ川に架かるポルタージュ橋を渡った。着いた瞬間、スパーキーさんは「ビアンブニュ!」(フランス語で「ようこそ」の意味)と叫んだ。そう、オタワの対岸にある双子都市のガティノーはケベック州のためフランス語を公用語としているのだ。
 出発したオンタリオ州は英語を公用語とし、看板は英語の次にフランス語を記している。それが川を渡った瞬間に、フランス語と英語の順番が逆転するのだ。

大捕物(?)となったタカ類。その正体とは…(23年9月、オンタリオ州で筆者撮影)zoom
大捕物(?)となったタカ類。その正体とは…(23年9月、オンタリオ州で筆者撮影)

 ▽旧1カナダドルの旧紙幣さながらの景色
 オタワ川沿いを進み、カナダ歴史博物館の前で休憩した。スパーキーさんは中央銀行のカナダ銀行が発行した1カナダドルの旧紙幣を掲げて裏面の絵を示した。
 「この絵を見てください。ここから眺めた景色と同じでしょう」。確かにオタワ川の対岸にある小高い丘に連邦議会議事堂がそびえている様子は紙幣のイラストさながらだ。紙幣の絵の左側には、第4回で怪談の舞台として名門ホテル「ザ・フェアモント・シャトー・ローリエ」もしっかりと描かれていた。

△オタワの自転車店「エスケープ・ツアーズ・アンド・レンタルズ」の前でのスパーキーさん(右)ら(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワの自転車店「エスケープ・ツアーズ・アンド・レンタルズ」の前でのスパーキーさん(右)ら(23年9月、筆者撮影)

 ▽大捕物?
 オンタリオ州に戻るマクドナルド・カルティエ橋の途中で、スパーキーさんは左手を指さして「あそこを眺めてください」と声を張り上げた。何と滝が流れており、「あれがリドー滝です。私たちはこれからあの上を走ります」と予告された。
 木々が生い茂る中を滝が流れ、見学客を乗せた観光船がオタワ川をゆっくりと周遊している。そんなのどかな様子はとても先進国の首都とは思えない。
 自転車のペダルをこいでいると、前方の木の枝で羽を休めている大きな鳥が見えた。おそらくタカ類だ。慌ててカメラを取り出し、何とか姿をキャッチした。
 「珍しいタカを撮影できた!」という高揚感を胸に、ツアー終了後にインターネットで検索した。それはタカ類のアカオノスリで、「北米で最もよく見られるタカ類」と説明されていた。
 オタワ観光の大トリを飾るのにふさわしいと期待した大鳥は、ファインダーに収めるのにそこまでの大捕物ではなかったようだ…。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【7】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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