旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年1月15日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

階段で「怪談」、LRTの工事現場から7体もの人骨 カナダの世界遺産でクルーズ体験【2】

△「ザ・ホーンテッド・ウオーク」のガイドを務めるモニカさん(2023年9月、筆者撮影)zoom
△「ザ・ホーンテッド・ウオーク」のガイドを務めるモニカさん(2023年9月、筆者撮影)

(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【1】」からの続き)
 日本の首都・東京の四谷ならぬカナダの首都オタワの階段で「怪談」に耳を傾けることになった。ガイドが心霊スポットへ案内して起きた出来事を伝える「ザ・ホーンテッド・ウオーク」のツアーに参加した時のことだ。次世代型路面電車(LRT)の工事現場から7体もの人骨が見つかった理由や、建てられてから150年近い洋館の階段から「突き落とされそうになった人がいる」といった怪奇現象の話を聞くと、この街で怪談に枚挙にいとまがないのは不思議なことではないと思えてくる―。

△オタワにある旧カールトン郡刑務所の建物。現在はユースホステルに使われている(17年8月、筆者撮影)zoom
△オタワにある旧カールトン郡刑務所の建物。現在はユースホステルに使われている(17年8月、筆者撮影)

 【ザ・ホーンテッド・ウオーク】カナダ東部オンタリオ州で心霊スポットを巡るガイド付きツアーを実施している企業。日本語で「呪われた散歩」を意味する。首都オタワ、キングストン、カナダの最大都市トロントに事務所があり、旧刑務所の建物内を歩いたり、都市内の心霊スポットを散策したりするコースを用意している。同社は、ガイドがツアー中に話す出来事や体験は「従業員らの体験や実際に見聞きした情報、報道や文献に基づく内容だけで、脚色したり大げさにしたりすることを固く禁じている」と説明している。公式ウェブサイト(「 ザ・ホーンテッド・ウオーク」)で概要を知ることができる。

△オタワの地下区間を走るOCトランスポのLRT「コンフェデレーション線」(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワの地下区間を走るOCトランスポのLRT「コンフェデレーション線」(23年9月、筆者撮影)

 ▽旧刑務所に続く恐怖体験
 私がザ・ホーンテッド・ウオークを知ったのは2017年8月、1862年から1972年まで旧カールトン郡刑務所として使われていた現在はユースホステルの建物のツアーに参加したのがきっかけだった(「本連載のシリーズ「隠れた鉄道天国カナダ」【5】」)。
 黒ずくめの服装でランプを提げたガイドが訥々(とつとつ)と口にする心霊体験に説得力があり、夏の夜を過ごすのに十分な清涼感を与えてくれた。このツアーは2023年末をもって終了した。

△オタワ中心部の夜景(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワ中心部の夜景(23年9月、筆者撮影)

 ▽お化け出没の「多くの目撃談」
 約6年1カ月ぶりのオタワ再訪となった今回も是非体験したいと思い、参加したツアーが「オリジナル・ホウンテッド・ウオーク・オブ・オタワ」だ。オタワ中心部の心霊スポットをガイドが約1時間15分かけて案内してくれる。オンラインで申し込むことができ、料金は大人が25・99カナダドル(約2800円)、14歳以下の子どもが19・99カナダドル(約2200円)だ。
 集合場所のオタワのスパークス通りにある事務所の前で、黒い衣装をまとったガイドのモニカさんが出迎えてくれた。午後8時に出発すると、目の前の古い建物の入り口にある階段を数歩上がったモニカさんは「オタワではお化けが出没したとの目撃談が多く寄せられています」と語りかけた。

△オタワ中心部のエルジン通りにある洋館(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワ中心部のエルジン通りにある洋館(23年9月、筆者撮影)

 ▽LRTの建設現場から人骨
 モニカさんは続けて「2013年には近くにあるクイーン通りの次世代型路面電車(LRT)の建設工事中に7体の人骨が出てきました」と説明した。そこは約1ヘクタールに及ぶ旧バラックヒル墓地があった場所で、現在のオタワの市街地を開発するために墓地は1845年に閉鎖されて100人を超える人骨が郊外のビーチウッド墓地へ移された。
 ところが、“引っ越し”させてもらえなかった多くの人骨が今もオタワ市街地に埋まったままになっていると信じられているという。
 2019年に開業したオタワを東西12・5キロ結ぶオタワ・カールトン地域交通公社(OCトランスポ)のLRT「コンフェデレーション線」は世界遺産のリドー運河が流れる中心部では2・5キロにわたって地下を走り、地中を掘り返したため大人4体、子ども3体の計7体の人骨が出てきた。約180年もの歳月を経て、7人はビーチウッド墓地に無事“終の棲家(ついのすみか)”を得た。

△現在は飲食店が入居している洋館の入り口(23年9月、筆者撮影)zoom
△現在は飲食店が入居している洋館の入り口(23年9月、筆者撮影)

 ▽怪奇現象が相次いだお屋敷風建物
 続いて大通りのエルジン通りに出ると、まるで周囲に林立する高層ビルに圧迫されているかのようにこじんまりとそびえる3階建ての洋館が目に入った。モニカさんはそれを指さしながら「あの建物は政治家で医師だった故ジェームス・アレクサンダー・グラントの住居として建てられ、その後は飲食店が入居しました」と説明した。
 飲食店の従業員らは誰もいない部屋でせきをする音が聞こえたり、階段で背中を押されて突き落とされそうになったりする怪奇現象を体験したとされる。事情を知っている人は背筋が凍り付いたという。
 その背景をモニカさんは「シガーを多く吸う愛煙家だったグラントは生前にぜんそくを患っており、1920年に転倒して股関節を骨折した約1カ月後に息を引き取っていたのです」と説明した。
 ぜんそくだったグラントは生前によくせきをしており、背中を押したのは「自身が転倒した復讐だった」とも、「医師として患者を欲していた」とも邪推されたという。
 私は翌日の夜、怪談の舞台となった階段への向かっていた…。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【3】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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