旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年1月6日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

首都オタワに立ち並ぶ8つもの「閘門」 カナダの世界遺産でクルーズ体験【1】

△8つの閘門が並ぶカナダ・オタワのリドー運河の起点(2023年9月、筆者撮影)zoom
△8つの閘門が並ぶカナダ・オタワのリドー運河の起点(2023年9月、筆者撮影)

 2024年元日に発生した石川県・能登半島を震源とする最大震度7の地震の被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。被災地の皆様におかれましては、くれぐれも余震、土砂災害や二次災害に警戒なさってください。皆様が1日も早く日常生活に戻れるようにお祈りしております。(筆者・大塚圭一郎)

△オタワの中心部(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワの中心部(23年9月、筆者撮影)

 カナダが誇る世界遺産の一つが、東部オンタリオ州の首都オタワと五大湖を構成するオンタリオ湖畔のキングストンの全長202キロに達するリドー運河だ。今も娯楽・観光用に活用されており、宿泊できる部屋を備えたモーター付き船舶「ハウスボート」ならば船舶免許がなくても操縦できるという。興味津々で起点のオタワへ向かうと、水位が異なる区間を船舶で航行できるようにするためのゲート「閘門(こうもん)」が8つも並んでいた。

△オタワの名門ホテル「フェアモント・シャトー・ロリエ」(右奥)。左奥は改築工事中の連邦議会議事堂(23年9月、筆者撮影)zoom
△オタワの名門ホテル「フェアモント・シャトー・ロリエ」(右奥)。左奥は改築工事中の連邦議会議事堂(23年9月、筆者撮影)

 【世界遺産】人類が共有すべき顕著な普遍的価値を持つ文化財や景観、自然などを対象に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が定めている遺産。1972年に採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」に基づいて登録しており、2023年時点で168カ国に計1199件がある。うち文化遺産が933件、自然遺産が227件、複合遺産が39件それぞれ登録されている。国別で最多なのはイタリアの59件(文化遺産53件、自然遺産6件)、日本は25件(文化遺産20件、自然遺産5件)で11位、カナダは22件(文化遺産が10件、自然遺産11件、複合遺産が1件)で14位となっている。

△リドー運河に架かる橋を渡る2階建ての路線バス(23年9月、筆者撮影)zoom
△リドー運河に架かる橋を渡る2階建ての路線バス(23年9月、筆者撮影)

 ▽米国との戦闘に備えて建設
 2007年に世界遺産(文化遺産)に登録されたリドー運河は1832年に完成した。オタワ観光局などによると、現在のオンタリオ州の一部を植民地化していたイギリス(英国)軍がアメリカ(米国)との戦闘が起きた場合に備えて軍事物資を輸送するために建設した。
 工事はジョン・バイ大佐が指揮を執り、1826年から約6年で完成させた。

△フェアモント・シャトー・ロリエの外観(2023年9月、筆者撮影)zoom
△フェアモント・シャトー・ロリエの外観(2023年9月、筆者撮影)

 ▽6年で完成した理由
 大規模な運河が約6年で完成したのは驚異的だが、それには2つの大きな理由がある。1つは1812~14年の米英戦争を踏まえて米国が侵攻してくるとの危機感があり、勃発に備えて毎年最大で5千人もの作業員を投入したためだ。
 ただ、米英戦争後に米国との武力衝突が起きることはなかった。
 もう1つは意外な理由で、全長202キロのうち手作業で人工的に掘って運河を敷設したのは1割の約19キロだけだったからだ。他は既にあった川や湖を活用して運河の一部とした。

△リドー運河にある手前の閘門が開く様子。奥の船舶は完全に開くまで待機している(23年9月、オタワで筆者撮影)zoom
△リドー運河にある手前の閘門が開く様子。奥の船舶は完全に開くまで待機している(23年9月、オタワで筆者撮影)

 ▽起点に8つも集中
 カナダ国立公園局(パークス・カナダ)によると、リドー運河の閘門は45(テイ運河の入り口を含めると計47)あるが、うちオタワ川に面した起点には8つもの閘門が集中している。オタワの代表的な名門ホテル「フェアモント・シャトー・ロリエ」の脇にあり、それらを開閉しながら船舶が24・1メートルの高低差を行き来する様子を眺めていると人工的に掘削した区間が全体のうち約19キロだったものの難工事だったのは一目瞭然だ。
 実際、オタワ観光局は「水路の建設中の事故やマラリアの流行で約1千人もの作業員が死亡した」と説明している。実際、運河沿いが「心霊スポットになっている」とその日の夜に教えられることになった…。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【2】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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