旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2018年3月6日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

一日ずっと空のさんぽで街おこし「天草エアライン」

青空に向かって飛ぶみぞか号zoom
青空に向かって飛ぶみぞか号

飛行機は働き者を実感
1機の飛行機が一日何フライトしているか普段気にする人は少ない事でしょう。それを実体験できる航空券があります。天草エアラインの一日の機体の稼働と同じく6、8、10フライトできる2018年バージョン「乗るだけ運賃」です。価格はどれも驚きの1万円。特別な空港ハンドリングが必要な為に、一日限定4人のレアな商品です。
最大の10フライトは、101便天草発福岡行きの7時55分から108便で福岡発天草に到着する19時45分までで、ほぼ12時間。飛行時間の合計は7時間25分で、東京からシンガポールへ行ける時間です。一旦出発すると、観光する時間が無いのは勿論、空港の保安検査場外にもほぼ出ません。1フライトあたり平均44分は、乗りこなすにはちょうどいい時間です。
機体とともに過ごす空のさんぽに出掛けてみました。機材はフランス製のATR42-600型機です。日本で初めて導入されたATR社の機体。南蛮文化を取り入れた天草の地に相応しい機体選定です。

乗るだけのフライトとは
この「乗るだけ運賃」の条件は、フライトのどのパターンでも天草空港始発の101便に乗ること。天草で一泊してもらい、観光で地元を活性化しようという考えからだそうです。フライトを楽しむと同時に天草エアラインを生んだ土壌も楽しむことができますので、天草エアラインにどっぷりと浸れる充実した時間になります。

8フライトに挑戦
東京や大阪などからこの10フライト商品に挑戦するには、2泊3日必要です。
6ないし8フライトであれば最短1泊でも大丈夫。今回は、8フライトに挑戦しました。共同運航するJALの羽田空港初便6:15発福岡空港行きの303便に乗れば、福岡空港で天草エアライン102便9:10発に繋がります。9:45にはもう天草空港に到着です。

空港での過ごし方で充実度がアップ
天草観光を一日たっぷり楽しんだ翌日がフライト挑戦の日。朝7時、天草空港ビルのオープンとともに館内に入り、チェックインを済ませます。天草空港が拠点となり途中3回戻って来ますのでその都度往復(熊本と大阪伊丹便の時は4フライト)の搭乗券が手渡されます。

このフライトの楽しみ方は、フライト中だけでなく、空港での時間の過ごし方にもあります。まずは展望デッキで機体の出発準備の様子を眺めてみます。空旅を愛する者は空港も好きです。

朝陽を受ける天草空港zoom
朝陽を受ける天草空港

空港前の穴場
駐車場の奥に小高い丘を見つけました。4~5mの高さしかありませんので、登るのは簡単。ターミナルビルが何も邪魔されずに視野に入ります。機体はというと尾翼が見えているだけ。それでも、高い場所は気持ちがいいです。
そろそろ搭乗開始かと丘を下ろうとした瞬間。しりもちをついて、丘の下まで一気に滑ってしまいました。芝の山で障害物が無いからいいものの、ズボンは朝露でびっしょり濡れてしまいました。これも楽しい思い出のひとつ。歩いてみると発見があります。

保安検査場は、社員が総出でお客様の荷物を検査しています。馴染みの利用客に気さくに話しかける姿に、保安検査さえ楽しく感じます。飛行機までは、徒歩で数十歩。

出発へ
青い機体を見ながら搭乗すると、一気に明るい気分になり、旅への期待が高まります。機内は赤いレザーのシックな装い。窓の外を眺めると、社員が「いってらっしゃい」や「楽しい空の旅を」というプラカードを抱えています。これほどの社員に見送られて出発するのは、イベントフライト以外では初めてです。

「乗るだけ運賃」いざ出発zoom
「乗るだけ運賃」いざ出発

身軽に離陸
離陸滑走開始の瞬間、背中がシートに押し付けられる感じはジェット機にも勝る力強さ。1,000mの短い滑走路で離陸するので、エンジンもパワフルです。いよいよ「乗るだけ運賃」8フライトの旅の始まりです。
天草⇔福岡間は、雲仙普賢岳が目印。高翼の機体の為、視界を遮りません。天草⇔熊本間は天草エアライン最短区間で、高度も2,000mを切り天草五橋の様子を間近に見ることができます。この「乗るだけ」運賃」では何度か同じ航路をフライトしますが、明るい昼間の風景と、夕暮れや夜景など、それぞれ変化があり機窓から終始目が離せません。

最長路線の楽しみ
熊本⇔大阪伊丹空港間は最長路線で往復共1時間を超えるフライト。天草エアラインの路線で唯一茶菓サービスがあります。地元のオレンジジュースと黒糖ドーナツ棒。JA熊本の温州ミカン「みかんちゃん」の紙パックは懐かしく優しい味。四国のパノラマを南側から存分に楽しみ、徳島空港や関西空港を目にして伊丹空港へランディング。昼の時間ですので、ターミナルビルで昼食の購入。機窓を楽しみながらの空弁は至福の時間です。伊丹発は、瀬戸内海を西行。明石海峡大橋、瀬戸大橋、しまなみ海道をも目にしながらゆったりと飛行していきます。山と内海のダイナミックな風景が気持ちを豊かにしてくれます。

瀬戸内海を眺めながら飛ぶzoom
瀬戸内海を眺めながら飛ぶ

客室乗務員は一人
天草エアラインに所属する客室乗務員は4人。当日の便には、一番社歴の短い今村さんが乗務していました。4人のプロフィールは座席に備え付けのファイルにありますので、親しみを感じます。時に客席から声が掛かり、話が弾むこともあります。一日10便のうち、始発便から熊本空港経由伊丹往復で天草戻りの6便連続乗務。交代の後はもう一名が福岡便二往復をこなし、一日二名がフライトとなります。ATR機では、お客様にとって、エンジンが小型で視界を邪魔せず眺めの良いこと、ラバトリーが後部になったことで視線が気にならず女性には好評だとか。

熊本を宣伝するエプロンを着用しサービスする今村さんzoom
熊本を宣伝するエプロンを着用しサービスする今村さん

「乗るだけ」の楽しみ
今回は8便制覇ですが、観光をした前日の102便と福岡から東京に戻るために乗った107便を追加して、トータルでは10便。搭乗前は多少きついのかなとも思っていましたが、実際には楽しくてもっと乗っていたいと思えました。10便連続の完全搭乗は次回の楽しみに取っておきます。

旅を終えて思い起こしてみれば、楽しさの理由がみえてきます。新たな飛行機好きの仲間ができること。係員にわかるように首から目印のカードを下げていますので、これがきっかけで話が始まります。今回の旅では、もちろん初対面の方々でしたが、みな飛行機好きの共通点がありますので、話が弾みます。おひとりは熊本在住の歯科医の先生。メカが大好きで、飛行機愛を語ります。車で天草空港に来られていて、お土産を買っては天草空港に戻る度に車に載せて身軽に旅をする、地元の方の特権です。
もう一方は東京の大手化学メーカー勤務のビジネスマン。10フライトを二日連続でこなす大の天草エアラインファンだそうで、客室乗務員とも話が弾んでいました。エアラインでお仕事をされている方もいました。趣味も飛行機。仕事でも乗りますが、好きで乗る機体に目を細めていました。さらに、翌日のチャレンジャーの方に会うという驚きもあり、一人旅のつもりが、同じ趣味を持つ仲間と出会えたことで、想像していた以上に充実の時間になりました。

土産を買う楽しみなど
続けて乗っていると、勤務の客室乗務員さんからも「頑張って」と声を掛けて貰えること。天草以外の空港では係員の案内で原則出発ゲートエリアに進みます。全ての空港での保安エリアからの機体の撮影も楽しめました。
そして天草を含むフライト途中の空港で地元の名産品を買えること。天草の土産は機内で客室乗務員が勧めてくれた「天草サブレ」に「うにまめ」を買ってみました。お気に入りの「博多通りもん」と、以前から気になっていた「熊本ラーメン名店大黒」なども購入。家についてからも、フライトの余韻は続きます。

伊丹空港で買ったイル・レ・ラッツアの和牛ミンチカツサンドと機内サービスのみかんジュースと黒糖ドーナツ棒  天草、熊本、伊丹、福岡空港それぞれのお土産zoom
伊丹空港で買ったイル・レ・ラッツアの和牛ミンチカツサンドと機内サービスのみかんジュースと黒糖ドーナツ棒  天草、熊本、伊丹、福岡空港それぞれのお土産

実際に挑戦してみないとその楽しさを全身で存分に感じることはできません。
今回のフライトを思い起こしながら、次に挑戦できる日が楽しみになっています。

協力:天草エアライン
⇒ https://www.amx.co.jp/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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