旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2023年10月8日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

米国人アーティスト最高額作品風のマリリン・モンロー肖像 自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア【4】

△アンディ・ウォーホルが手がけた「Shot Orange Marylin」(2023年7月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで筆者撮影)zoom
△アンディ・ウォーホルが手がけた「Shot Orange Marylin」(2023年7月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで筆者撮影)

 (「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【3】」からの続き)
 まるでジェットコースターに乗ったかのようにビンセント・バン・ゴッホの「ひまわり」やクロード・モネの「睡蓮(すいれん)」といった名画鑑賞の高みを満喫後、理解不能な現代芸術(個人的感想です)に突き落とされた―。アメリカ(米国)東部ペンシルベニア州のフィラデルフィア美術館の印象派ツアーは幕を閉じたが、私のような凡人でも目を引く“超お宝級”の現代美術が飾られていた。

△フィラデルフィア美術館の館内(23年7月2日、筆者撮影)zoom
△フィラデルフィア美術館の館内(23年7月2日、筆者撮影)

 ▽USJのパーク内で放送されている一節
 印象派のツアーを率いてくれたリンダさんは「これで本ツアーは終了です」と宣言し、「この後もフィラデルフィア美術館でお楽しみください」と日本語に訳すと大阪市のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で放送されている一節のような英語の言い回しで別れを告げた。

 ▽「VIVANT」のオープニング映像の心境!?
 このツアーに参加する前は、主題である印象派の名画に目を癒やされて後味の良いエンディングが待ち受けているのだろうと予想していた。ボランティアでガイドを担っているリンダさんの説明のおかげで発見があり、楽しい時間を過ごせたのは期待通りだった。
 ただし、幅広い会が愛好家に感銘を与える印象派に背を向けるように難解で、万人するわけではない現代芸術の一角で放り出されたことに当惑した。ヒットしたTBSテレビのドラマ「VIVANT」で堺雅人さんが演じる主人公、乃木憂助が砂漠をさまよっていた場面のように居場所を見いだせない不安な心境に追い込まれた…。

△ウォーホルの作品「4人のジャッキー」(23年7月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで筆者撮影)zoom
△ウォーホルの作品「4人のジャッキー」(23年7月2日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで筆者撮影)

 ▽唯一無二の存在感の米国人俳優の肖像
 だが、現代芸術のコーナーの壁に掲げられた作品をひと目見て「これは!」と思わず立ち止まった。唯一無二の存在感を発揮していた米国人俳優、マリリン・モンロー(1926~62年)の肖像だ。米国人ポップアーティストのアンディ・ウォーホル(1928~87年)が1964年に手がけた「Shot Orange Marylin」と題する作品だ。
 この作品はモンローの顔の背景がオレンジ色なのに対し、背景が薄い青色の64年に制作された作品「Shot Sage Blue Marylin」は2023年4月に競売会社クリスティーズがニューヨークで開催したオークションで1億9500万ドル(1ドル=148円で約289億円)と米国人アーティストの作品としては史上最高額で落札された。背景の色は違えども構図はうり二つの作品だけに「とてつもない価値を持つのではないか?」と気になった。

 ▽元ファーストレディの肖像
 隣に飾られていたウォーホルの同じ1964年の作品「4人のジャッキー」も目を引いた。飾られていた。ジョン・F・ケネディ元米国大統領夫人(JFK)のファーストレディだったジャクリーン・ケネディ・オナシス(1929~94年)の顔写真を4枚並べた作品だ。ジャクリーンはキャロライン・ケネディ元駐日米国大使(現駐オーストラリア米国大使)の母親だ。
 JFKが1963年に米国南部テキサス州ダラスをオープンカーでパレード中に銃殺された前後に撮られたメディアの写真を組み合わせており、過熱した報道がプライバシーを蹂躙(じゅうりん)した様子を強調したとされる。

△フィラデルフィア中心部(23年8月に筆者撮影)zoom
△フィラデルフィア中心部(23年8月に筆者撮影)

 ▽ジェットコースターのような起伏
 「ジャッキー」の愛称で親しまれた若いファーストレディはファッションリーダーとして世界から注目の的となり、夫の不慮の死で未亡人になると“悲劇のヒロイン”としてクローズアップされた。1968年にギリシャの海運王だったアリストテレス・オナシスと再婚すると「元ファーストレディの相手としてふさわしくない」との批判を浴びた。
 4枚の表情を見比べると左上の写真は笑顔なのに対し、ジョン・F・ケネディの暗殺後とうかがえる右下の写真は沈鬱(ちんうつ)な様子で対照的だ。世界最大の経済大国のファーストレディ、かつ世界の女性が憧れるファッションリーダーという高みを味わった後、予期しなかった悲劇が襲っても好奇の目にさらされ続けて苦悩する様子は、ジェットコースターのように起伏が激しい生涯を物語っていた。
 (「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【5】」に続く)
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共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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