(「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【3】」からの続き)
まるでジェットコースターに乗ったかのようにビンセント・バン・ゴッホの「ひまわり」やクロード・モネの「睡蓮(すいれん)」といった名画鑑賞の高みを満喫後、理解不能な現代芸術(個人的感想です)に突き落とされた―。アメリカ(米国)東部ペンシルベニア州のフィラデルフィア美術館の印象派ツアーは幕を閉じたが、私のような凡人でも目を引く“超お宝級”の現代美術が飾られていた。
▽USJのパーク内で放送されている一節
印象派のツアーを率いてくれたリンダさんは「これで本ツアーは終了です」と宣言し、「この後もフィラデルフィア美術館でお楽しみください」と日本語に訳すと大阪市のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で放送されている一節のような英語の言い回しで別れを告げた。
▽「VIVANT」のオープニング映像の心境!?
このツアーに参加する前は、主題である印象派の名画に目を癒やされて後味の良いエンディングが待ち受けているのだろうと予想していた。ボランティアでガイドを担っているリンダさんの説明のおかげで発見があり、楽しい時間を過ごせたのは期待通りだった。
ただし、幅広い会が愛好家に感銘を与える印象派に背を向けるように難解で、万人するわけではない現代芸術の一角で放り出されたことに当惑した。ヒットしたTBSテレビのドラマ「VIVANT」で堺雅人さんが演じる主人公、乃木憂助が砂漠をさまよっていた場面のように居場所を見いだせない不安な心境に追い込まれた…。
▽唯一無二の存在感の米国人俳優の肖像
だが、現代芸術のコーナーの壁に掲げられた作品をひと目見て「これは!」と思わず立ち止まった。唯一無二の存在感を発揮していた米国人俳優、マリリン・モンロー(1926~62年)の肖像だ。米国人ポップアーティストのアンディ・ウォーホル(1928~87年)が1964年に手がけた「Shot Orange Marylin」と題する作品だ。
この作品はモンローの顔の背景がオレンジ色なのに対し、背景が薄い青色の64年に制作された作品「Shot Sage Blue Marylin」は2023年4月に競売会社クリスティーズがニューヨークで開催したオークションで1億9500万ドル(1ドル=148円で約289億円)と米国人アーティストの作品としては史上最高額で落札された。背景の色は違えども構図はうり二つの作品だけに「とてつもない価値を持つのではないか?」と気になった。
▽元ファーストレディの肖像
隣に飾られていたウォーホルの同じ1964年の作品「4人のジャッキー」も目を引いた。飾られていた。ジョン・F・ケネディ元米国大統領夫人(JFK)のファーストレディだったジャクリーン・ケネディ・オナシス(1929~94年)の顔写真を4枚並べた作品だ。ジャクリーンはキャロライン・ケネディ元駐日米国大使(現駐オーストラリア米国大使)の母親だ。
JFKが1963年に米国南部テキサス州ダラスをオープンカーでパレード中に銃殺された前後に撮られたメディアの写真を組み合わせており、過熱した報道がプライバシーを蹂躙(じゅうりん)した様子を強調したとされる。
▽ジェットコースターのような起伏
「ジャッキー」の愛称で親しまれた若いファーストレディはファッションリーダーとして世界から注目の的となり、夫の不慮の死で未亡人になると“悲劇のヒロイン”としてクローズアップされた。1968年にギリシャの海運王だったアリストテレス・オナシスと再婚すると「元ファーストレディの相手としてふさわしくない」との批判を浴びた。
4枚の表情を見比べると左上の写真は笑顔なのに対し、ジョン・F・ケネディの暗殺後とうかがえる右下の写真は沈鬱(ちんうつ)な様子で対照的だ。世界最大の経済大国のファーストレディ、かつ世界の女性が憧れるファッションリーダーという高みを味わった後、予期しなかった悲劇が襲っても好奇の目にさらされ続けて苦悩する様子は、ジェットコースターのように起伏が激しい生涯を物語っていた。
(「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【5】」に続く)
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