旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2019年1月2日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Winter Scenery

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Two hearts four eyes
Crying all day and night long
Dark eyes, you cry because We can't be together

My mother told me
You mustn't fall in love with this boy

But I went for him anyway and love him till the end
I will love him till the end of the world

- "Cold War” 2018 Pawel Pawlikowski
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今年のクリスマスホリデーはロンドンにいました。

街は、すっかりラブアクチュアリーです。クリスマスな風合いの箱を抱えた家族のお買い物、ドアにかけられたリース、赤いリボンがかかったのがいいなぁと憧れながら通る住宅街、Harrodsのショーウィンドウもチョコレートやさんもキラキラ光って、またロンドンにいる事が幸せです。この街に住んでいた時に欲しかった可愛い刺繍のお店で弟の子供達に贈り物を買いました。年の瀬になると、1年間支えてくれた人たちの顔がいっぱいの感謝とともに思い出されるものです。クリスマスカードを書きながら、どのカードにも何回もキスマークを付けたいくらいだわ、と思うのでした。

Aちゃんのお家で開かれるクリスマスパーティーへ。七面鳥の丸焼きの準備を前の日から一緒に手伝いながら、と言ってもカメラを回してるだけで笑い声しか撮影されていない楽しい時間です。毎年大きな器で用意してくれるシナモンたっぷりのApple Crumbleを囲み、Bちゃんのイタリア人な英語に相槌ながら、もう10年くらい私たちお互いを知っていることを毎年集まるたびに愛おしく思うのです。Mamma Mia! を見てABBAの曲を口ずさみ、サンタクロースの帽子をかぶった彼女の彼と3人でソファに座って笑っている優しい時間が流れていました。
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Mince Pie at The Roasting Party

Aちゃんとロンドンのパン屋さんで働いていた時に初めて知ったクリスマス=Mince Pie。12月になると、ゆりかごを型どったと書いてある本もありますが、ドライフルーツとスパイス入りの小さなパイが山積み売られています。サイズも可愛いし、ひとつで十分甘くてちょうどコーヒーと一緒に食べたい、いろんなのを試してみたいMince Pie大好きな私は、チェルシー地区にあるThe Roasting Partyでカフェ時間です。

The Roasting Partyは何年も前のCoffee Festivalから行って見たかったカフェでした。ロンドンには良いカフェがたくさんありますが、この通りを通るときはもう一度行きたいな、と思えるのはコーヒーだけではなくてカフェ全体にあると思います。手作りゴツゴツっとした生地のMince Pieと丁寧に淹れられたコーヒーはとても美味しくてグッとくる香りと濃さで、一日のお散歩が幸せになる素敵な場所でした。

チェルシー地区を歩いていると、Daylesford Organicの白いタイルや、角の小さなお花やさんの薔薇の色、チーズ屋さんのお姉さんの話し方、ひとつひとつがチャーミングで、なんだかいっつも自分が怒っていたかのような、もしくはオランダ人が直進し過ぎているのでしょうか、ホロンホロンと大切にしたい繊細なものが自分に戻ってくるような気がしました。
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さて、日曜日の朝は空港に向かう前に近所でいちばんのカフェで朝ごはん−Sparrow

美味しい。イングリッシュマフィンにFennel seedが入ってフワッと香るところや、ちょうどいい加減のポーチドエッグ。昨晩がご馳走だったからほうれん草とレモンの付け合せにしたのですが、バターがいいのか塩がいいのかレモンが新鮮なのか絶妙に美味しい。生姜とグレープフルーツのジュースのピンク色と、Holland sourceの黄色、ほうれん草の緑色、木のテーブル。今日が日曜日で嬉し過ぎでしょうなサンデーブランチでした。

この辺りは、昨日とは打って変わっていろんな民族の人が住んでいて雑多な灰色のロンドンですが、このカフェにいる人たちは奥の長テーブルの家族も、隣のダブルカップルも、奥で新聞を読むおじさんも、みんな温かいのでした。カフェっていいなぁ、連れてきてくれてありがとう、空港に向かう時間まで一緒にいてくれたのでした。
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Pawel Pawlikowski『Cold War』

さて、この冬はどんな印象的なシーンがあったでしょうか。ずっとずっと会いたかった人にAmsterdamのカフェで再会しました。大好きなカフェで大好きな人の前に座り、湯気の立つSafran bunの香りとラテのある場面、この瞬間を何度思ったことでしょう。誕生日だからパチパチ火花が出るキャンドルを立てたけど、以前とは違うのでした。燃え尽きて黒くなったイニシャルが、パタンと置いていかれていました。

映画を見ました。冒頭の歌詞はPawlikowskiの『Cold War』で唄われるポーランドの民謡なのですが、この映画は全てのシーンが美しい白黒の映画で、雪の白、ドレスの黒、ステージのライト、運河でボートに乗る静かな悲しい抱擁シーン、激しい気性までが痛々しいほど美しいのでドキドキが止まりませんでした。昨年の『Ida』も最近になって見たのですが、重ねてみるとポーランドの寒い雪のシーンと、人種という熱い血とアルコールの場面の対比が、淡々とクラッシックの旋律とともに撮られていて胸を打ちます。時代のゆえ、お互いに違うパートナーを選んだのに、この世の終わりまで愛しているという強い意志が主人公から迸る映像でした。Endrollに流れるバッハのアリアを、ため息をつくように聴きながら、印象的なシーンが自分の中に沈んでいくのでした。

大晦日、ご近所さんがOliebollenを持って来てくれました。オランダの年越しはこの丸いドーナッツと止まない花火の音とともにやって来ます。日本の厳かさとは無縁ですが、一緒にカウントダウンをテレビで見ながら、バンバン降るように続く花火を窓を開けて眺め、持って来てくれたOliebollenを温めて粉砂糖をたっぷりかけるDutchな幸福。そして目が覚めたら、今度はお雑煮を振る舞い、今年も健康で良い年になるようにと願ったのでした。

2019年も旅をしながらいいカフェで過ごす幸せな時間が続きますように。
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The Roasting Party:https://theroastingparty.co.uk 

Scandinavian Embassyhttp://scandinavianembassy.nl/index.php

Sparrow:http://sparrowlondon.co.uk

『Cold War』Pawel Pawlikowski (2018)https://youtu.be/BvPkDdFeTk8
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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