旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2018年12月30日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

シカゴブルース、番外編~ブルース界の日本人レジェンド“Ariyo”とは? 【連載】建築&アート、音楽と食を巡るシカゴの旅 最終回

"Ariyo(アリヨ)"こと有吉須美人氏(右)と、左はシカゴブルースを代表するハーププレイヤーのビリー・ブランチ氏。zoom
"Ariyo(アリヨ)"こと有吉須美人氏(右)と、左はシカゴブルースを代表するハーププレイヤーのビリー・ブランチ氏。

全13回にわたって連載してきたシカゴの旅コラム。最終回は“番外編”として、ブルース初心者の私がシカゴで出会った、ひとりの日本人ピアニストをご紹介します。

シカゴブルース界、唯一の日本人レジェンド
“Ariyo(アリヨ)”の愛称で知られるブルース・ピアニスト有吉須美人氏は、日本人としてのみならず、東洋人として初めてシカゴブルースの殿堂入りを果たした人物。シカゴブルース界唯一の日本人レジェンドです。

3歳の時からクラシックピアノを学んだAriyoさんは、京都出身。
「ピアノの王道といえばクラシックで、ブルースはマイナーな音楽」と語るAriyoさんがブルースと出合ったのは、高校生の時のこと。日本では“ブルースの神様”と崇められるロバートJr・ロックウッドの初来日で、最初のブルースブームが起きた1970年代でした。先輩に請われ、ピアノコピーのために渡されたエルモア・ジェームスのカセットテープを聴き、スライドギターの合間を縫って紡がれるピアノの音に魅せられたといいます。

「クラシックの譜面に縛られることに漠然と疑問を抱いていた時期でもあり、決まりごとがある中でも自由な演奏ができるブルースの世界に、衝撃を受けました。とても狭いのに、そこに宇宙があるように感じたんです」と、Ariyoさん。それからは、大学生や社会人のバンドに参加してライブハウスに出入りするようになり、伝説のフォークソンググループ「赤い鳥」の前座を務めたこともあるそうです。

Ariyo流英会話習得法とは?
大学時代のライブ活動を経て1983年に渡米。シカゴのライブハウスに出演の機会を得るようになるのですが、その経緯がとてもユニーク。まず、ダウンタウンの安宿を拠点にし、英語を覚えるため、ホテルの近くを寝ぐらにしていたホームレスに話しかける毎日。老舗ブルースクラブのバンドに飛び入りしたら、休憩を挟んだ最後の曲まで演奏させてくれて、「これから毎週日曜日に来て弾いてくれ」と、その日のギャラを渡されたといいます。

それからわずか半年後には、伝説のブルースマン、ジミー・ロジャースバンドのレギュラーメンバーとして、全米&カナダのツアーに参加。さらに2年後には、10代から憧れていたロバートJr・ロックウッドのピアニストとして日本ツアーに同行し、凱旋帰国を果たしたのです。まさに、ジェットコースター級のシンデレラボーイ・ストーリーではありませんか!

ビザの関係でいったん帰国を余儀なくされますが、日本ではソロ活動をスタート。自身のリーダーバンドを結成したり、憂歌団や甲本ヒロト、上田正樹など著名ミュージシャンとも共演します。
ビザ取得のめどがついた2001年に再渡米し、シカゴを代表するブルース・ハーププレイヤー、ビリー・ブランチ氏の誘いでThe Sons of Blues(ザ・サンズ・オブ・ブルース;SOB)に加入。以来、SOBのメンバーとして活動する一方、レコーディングやツアーなど、さまざまなミュージシャンとのコラボ果たしています。

あらゆるミュージシャンを受け入れる、懐の深さがある街
初めてシカゴを訪れたころのことを振り返り、
「自分のことを誰も知らない、気にかけない環境だったから、より積極的になれたんだたと思う。そして、シカゴという街には、どこの馬の骨かわからない日本人ピアニストを受け入れ、チャンスを与えてくれる懐の深さがあった。その土壌は、今も変わらないよ」とAriyoさん。

シカゴでは毎年6~8月の夏フェスの季節、街のいたるところに音楽があふれます。世界中から多くの音楽ファンが訪れるこの時期、音楽フェスティバルでは観客としてやってきたミュージシャンが即興で演奏したり、ライブハウスではAriyoさんのように、飛び込みでステージに立つ旅行者も珍しくないのだそうです。
7月に旅したシカゴと、そこで出会ったひとりの日本人ブルースマンを思い出しながら、もう一度この街を訪れることができたら、そんなディープな音楽シーンに触れてみたいと思っています。

●協力
シカゴ観光局

choosechicago.com/jp/
ユナイテッド航空
www.united.com
Special thanks to Ariyo, Mr. Sumito Ariyoshi

Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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