トラベルコラム

  • 【連載コラム】トラベルエディターの旅コラム
  • 2012年7月2日更新
世界で一番好きな場所
Editor:スミタナオコ

グレートバリアリーフに浮かぶ孤島 オーフィアスアイランド

オーフィアスアイランドはグレートバリアリーフの美しい海の中に浮かぶ島だzoom
オーフィアスアイランドはグレートバリアリーフの美しい海の中に浮かぶ島だ
先日ある機内誌で、70代前半の女性が投稿した、生まれて初めての海外旅行体験談を読んだ。彼女は「残りの人生はこの旅を日々思い返しながら生きていきたい」と言っていたけれど、まさに、私の心の中にも旅の想い出がきらきらと散りばめられていて、様々に輝くかけらをその日の気分で拾い上げては、記憶の断片を心に浮かべて、そっと楽しんでいる。

初めて一人で海外に旅したのは、大学生になったばかりの18歳の夏休み。閉塞感で押し殺されそうな地方の高校生活からようやく脱し、自由の身となった私は、まるで糸の切れた風船のように、さらに一歩でも遠く、少しでも新しいものを求め、親の心配をよそに未知の土地に飛び出した。あの頃の旅の記憶は15年近くたった今でも強烈で、シリウスのように燦然と私の心に輝いている。
その冒険譚をご紹介したくもあるのだけど、今回は、私の心の中で、もっとも美しく静謐な場所にある、旅の想い出について話したい。
島へ訪れる唯一の交通手段は水上飛行機zoom
島へ訪れる唯一の交通手段は水上飛行機
それはオーストラリアのグレートバリアリーフに浮かぶ、オーフィアスという島のこと。
その島に訪れたのは2007年で、それまでにいくつかラグジュアリーリゾートを呼ばれる場所に訪れてはいたけれど、ここはその中でも別格だった。モルディブなどによくある、いわゆる一島一リゾートスタイルで、部屋の総数はわずか21。島に行くには、タウンズビルというケアンズから南に350キロほど下った地方都市の空港から、リゾート専用の水上飛行機に乗る必要がある。世界のセレブも常連だというから、それはそれはゴージャスなリゾートなのだろうと予想していた。

水上飛行機から小型船に乗り換え島の桟橋に向かう海上から見る島は、緑に覆われて一見そこにホテルがあるとはわからない。やがて桟橋に近づくにつれ、椰子の木の間にひっそりといくつかのコテージが並ぶのが見えてきた。到着して驚いたのは、まずはその素朴さ。各部屋にはテレビもインターネット環境もないし、スパや、当然ながらカジノといった設備もない。当時は、アロンとブリジットという若いカナダ人の夫婦がオーナーで、チェックインの手続きからスーツケースの持ち運び、ゲストの翌日の朝食の希望から小型船の操縦まであらゆる業務を身軽にこなしていた。
各コテージの入り口。シンプルだがえもいわれぬ居心地の良さzoom
各コテージの入り口。シンプルだがえもいわれぬ居心地の良さ
最初はあまりにも静かな島に、退屈するかと思った。しかし、壁に映る椰子の葉のシルエットの美しさに目を細め、鳥やカエルなどの小さな生き物の声に耳を傾け、夕暮れ後の宇宙まで続く空の蒼さに心を染めているうちに、やがて心が能動的に動くようになる。

島の成り立ちがぼんやりと理解できはじめたら、今度は岬の向こうの入江が気になり、裏手にある小高い丘から島の全体を見たくてたまらない。

ディンギーで誰もいないビーチへ冒険。前日までに予約すればピクニックランチをつくってくれるzoom
ディンギーで誰もいないビーチへ冒険。前日までに予約すればピクニックランチをつくってくれる
そんなゲストの心の動きを心得ているのだろう。島にはその望みに応える準備がある。
たとえば、ディンギー。ゲストはディンギーという小型のエンジン付きボートを借りて、島の周辺を自由に船で探検することができる。
「そんな危険なこと許されるの?」
一瞬そう思ってしまうのは、普段自分がいかに、「誰か」の作ったルールに頼り、自分の判断をないがしろにして行動しているかという証拠だろう。もちろん、危険のないよう、操縦の手順やおおまかなルートなどはあらかじめ教えてくれるが、その後危険か否かは自分で判断するまでだ。ピクニックバスケットと共にディンギーに乗り込んで、見つけた無人のビーチで過ごしたひと時は、忘れ難い思い出だ。
シンプルで清潔感あふれる客室。スイート以外テレビはないが、それがかえってありがたいzoom
シンプルで清潔感あふれる客室。スイート以外テレビはないが、それがかえってありがたい
この島の収容人数は最大で42名。しかも16歳未満は入島は禁じられているから、島はとても静かだ。世界各国からあらゆる国籍の人々が集まり、16歳になったばかりのお嬢さんとその父親や、車いすの老夫婦など、様々な種類の人がいる。顔を合わせれば挨拶をし、少しおしゃべりをして別れた。誰も着飾らず、華美なものはどこかに置いてきたようだった。
ゲストとスタッフは対等で、過剰なサービスはないが、要望を述べればあらゆる対応と提案をくれる。食事も、アクティビティも決まったメニューはなく、要望次第というのも新鮮。逆に希望がなければ、この島では立ち尽くしてしまうかもしれない。
しかし、ディナーに集まったゲストの顔をそっと見渡すと、皆、満たされた顔をしていた。ディンギーを借りる時に、「今までに遭難したゲストはひとりもいないよ」とアロンは笑ったけれど、そういうことなのだろう。自分で判断できる人々が集まる島ということなのだ。
オープンエアのレストラン。夕陽の美しさは格別だzoom
オープンエアのレストラン。夕陽の美しさは格別だ
すべてが心地よく用意されたリゾートで数日を過ごしたにも関わらず、オーフィアスから帰ってきた後、それまでの旅は受動的だった、と思った。見せられたものを見て、与えられたもので遊んでいた。
旅を能動的に行うのには、知識と好奇心と思慮が必要だ。若いころの旅はただがむしゃらに吸収するだけでいいけれど、そろそろその蓄積を咀嚼し、次の旅につないでいくべき時期にいる。
オーフィアスアイランドは私にそんな旅の姿勢を教えてくれた、特別な島だ。
Editor:スミタナオコ
大学在学中から海外を旅し、そのまま旅行ガイドブックの編集を仕事に。その後、ライフスタイル紙のライター、編集を経て、現在はウェブサイトのコンテンツ制作などに携わる。趣味はダイビング、ハイキング、キャンプ、ビール造りなど。今年はカヌーを始めたい!
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