旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2019年1月21日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

【オリーブオイルの故郷・チュニジアの旅】 Vo.1 チュニジア随一のオーガニックファームで手摘み体験

チュニジア随一の広さを誇る、CHO(チョー)社のオリーブ果樹園。zoom
チュニジア随一の広さを誇る、CHO(チョー)社のオリーブ果樹園。
日本でもポピュラーな食材となり、近ごろでは和食にも取り入れられるようになったオリーブオイル。その産地はというと地中海沿岸のイタリア、スペインのイメージが強いと思います。じつは、その両国に勝るオリーブオイルの歴史と生産量を誇るのが、対岸に位置する北アフリカのチュニジア。この国には、およそ3000年にわたるオリーブ栽培の歴史があるのだとか。そんなオリーブオイルの故郷を訪ねてきました。

チュニジア3000年の歴史、フェニキア人がもたらしたオリーブの木
チュニジアには世界最古、樹齢3000年ともいわれるオリーブの木が残っているそうです。このオリーブをもたらしたのが、フェニキア人。紀元前814年に古代カルタゴを建国したエリッサ王女が暗殺者の手から逃れ、故国フェニキアを脱出した際にさまざまな財宝とともに農業のノウハウを持ち出しました。そのひとつにオリーブ栽培があり、高温で乾燥した土地に適したオリーブ栽培がチュニジアの地に根付き、オイルの抽出法とともに全土に広まりました。

広大なオリーブ果樹園の大部分がオーガニック農園
訪れたのは、首都チュニスから約240km離れたチュニジア第二の都市スファックス。ここにチュニジア随一のオリーブオイルメーカー、CHO(チョー)社の本社と、近郊にはオリーブ果樹園があります。
高温で乾燥した半砂漠性の気候を利用し、オリーブのオーガニック栽培が行われています。zoom
高温で乾燥した半砂漠性の気候を利用し、オリーブのオーガニック栽培が行われています。
CHO社が所有するオリーブ果樹園の広さは約3000ヘクタール。数字だけだとどのくらいの広さなのかピンときませんが、東京ドームの約650個分です。その広大なオリーブ果樹園の大部分がオーガニック栽培。1年のうち330日以上晴天が続き、さらに高温の土地では害虫が発生しないのだとか。過酷ともいえる半砂漠性気候が、オリーブのオーガニック栽培を容易にしているのです。

広大な農園で手摘み体験にチャレンジ!
オリーブの実の収穫期は例年11月ごろから翌年3月まで。訪れた10月末はちょうど収穫が始まったばかりの時期。農園のスタッフに混じり、収穫の体験をさせてもらいました。
高さ3m以上あるオリーブの木から、熊手のような器具を使い丁寧に実を落としていきます。zoom
高さ3m以上あるオリーブの木から、熊手のような器具を使い丁寧に実を落としていきます。
驚いたのは今まで目にしたことがあるオリーブの木より背が高く、立派な幹が多いということ。ここでは樹齢25年以下は「若木=young」とされ、70~90年でようやく大人の木と呼ばれるようになります。なかには1000年近いと思われる古木も立派に実を付けているとか。そんな老木の実から採れたオイルに商品価値があるのかどうか、CHO社のスタッフに尋ねてみました。
「樹齢は関係ありません。1000歳の木の実からもちゃんとオイルが採れるし、品質も問題ありません。収穫した実からどれだけ早くオイルを絞るかが、オリーブオイルの品質を左右するのです」
収穫した実を空気にさらし、その日のうちにオイル工場へ。このオリーブオイルは、日本にも出荷されています。zoom
収穫した実を空気にさらし、その日のうちにオイル工場へ。このオリーブオイルは、日本にも出荷されています。
「手摘み」と聞いていたので、手で1個ずつ実を積んでいく作業を想像していたのですが、渡されたのは小さな熊手。熟した実を選び、優しくこそげ落とす要領で木の下に広げられたネットの上に落としていきます。ネットの上に落とされた実はいったんザルに集められ、もう一度ネットの上にパラパラと広げるように落とされます。実全体に空気を充てることで鮮度が保たれるのだそう。
ザルの中の実を均一に落とすことは想像以上に難しく、一見単純に見える手作業の一つひとつに歴史と熟練の技があることを知りました。再び集められた実は収穫かごに入れて工場に運ばれ、その日のうちにオイルが絞られます。
木と木の間隔は約24m。のびのびとした枝ぶりのオリーブの木は、乾燥した土地でも力強く根を張り水分を吸収することができます。zoom
木と木の間隔は約24m。のびのびとした枝ぶりのオリーブの木は、乾燥した土地でも力強く根を張り水分を吸収することができます。
チュニジアの地に根付いた、オリーブ栽培と循環型農業
収穫が終わった木には、余分な枝を落とす剪定作業がなされます。さらに、剪定後の葉やオリーブオイルの搾りかすは堆肥化して苗木の肥料として使われます。オリーブオイルの故郷・チュニジアには、こうして見事な循環型農業のシステムができあがっているのです。

農園内では新たな苗木の植樹が行われ、この作業も体験させてもらいました。木と木の間隔は約24m。植樹後にはたっぷりの水が与えられます。樹間を十分にとることでオリーブの木はしっかりと根を張ることができ、少雨の地でも水分を吸収できるのだそうです。
樹齢1000年の古木がある一方で、新しい苗木の植樹も。これは、私が植えた苗木。zoom
樹齢1000年の古木がある一方で、新しい苗木の植樹も。これは、私が植えた苗木。
私が植えたオリーブの苗木が実をつけるまで最短でも5年。「若木」と呼ばれるまでは約20年かかります。その実から採れたオリーブオイルが海を渡り、日本に届く日が待ち遠しくてなりません。

次回は、収穫したオリーブの実からオリーブオイルができるまで、チュニジアの“工場見学体験”をご紹介します。

●Special thanks to:
TERRA DELYSSA(テラ・デリッサ)
www.terradelyssa.com
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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