旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2018年12月3日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

シカゴブルース、マニアック編 【連載】建築&アート、音楽と食を巡るシカゴの旅 Vol.12

建物があるあたりはクルマ屋が多く“モーター・ロード”と呼ばれた倉庫街。格安の家賃を求めてレコード会社が集まってきたそう。zoom
建物があるあたりはクルマ屋が多く“モーター・ロード”と呼ばれた倉庫街。格安の家賃を求めてレコード会社が集まってきたそう。
シカゴブルース、マニアック編では、ブルース好きの人が“聖地中の聖地”と呼び、「一度は訪れてみたい!」と熱望する、ブルースのミュージアム訪問記です。

シカゴブルースを世界に発信したレコード会社
『Chess Records(チェス・レコード)』の名を聞いたことがありますか? アメリカ南部の黒人労働者の間で生まれ、シカゴで発展したブルースが世界中に知られるきっかけを作ったレコード会社です。1950年、ポーランド移民のチェス兄弟によって設立されたChess Recordsは、1970年代までマディ・ウォーターズやチャック・ベリー、ココ・テイラーなど、ブルースの歴史に残るミュージシャンたちの名盤をリリースし続けてきました。会社とスタジオがあった建物は現在、故ウィリー・ディクソンが立ち上げた財団が所有・運営するミュージアムとして一般公開され、予約制のスタジオツアーが催行されています。
ステージ写真のパネルが飾られた1階のスペース。当時の熱気が蘇ってきます。zoom
ステージ写真のパネルが飾られた1階のスペース。当時の熱気が蘇ってきます。
この日、ミュージアムツアーの案内をしてくれたジャニーさんは、自身もミュージシャンとして活動する女性。彼女によると1階のロビーは、かつてオーディションに使われた場所だそう。オフィスも当時のまま残されていて、「Lovin‘You」で知られるハイトーンのボーカリスト、ミニー・リパートンがここでレセプショニストとして働いていたことがあるのだとか。セリーヌ・ディオンやマライヤ・キャリーに大きな影響を与えたといわれるミニーの下積み時代がここにあったのかと思うと、改めてすごい場所に来てしまったのだという、実感がわいてきました。
ブルース史に残るミュージシャンたちの貴重な資料やプライベート写真、実際に着ていたステージ衣装なども展示しています。zoom
ブルース史に残るミュージシャンたちの貴重な資料やプライベート写真、実際に着ていたステージ衣装なども展示しています。
さらに奥はフォトギャラリーになっていて、歴史に残るブルースマン&ウーマンたちのステージ写真が展示されています。家族や友人とのオフショット、直筆の詞や、愛用の楽器の数々も。ひときわ華やかなピンクラメの衣装は、“クイーン・オブ・ザ・ブルース”と呼ばれたココ・テイラーがグラミー賞受賞時に実際に着ていたものだとか。一つひとつ眺めてると、彼らの熱気や息遣いまで伝わってくるようです。

数々の名盤が産み出されたスタジオが当時のままに
独特のサウンドを産み出すことで定評があったChess Recordsのスタジオでは、ブルースの影響を強く受けていたローリング・ストーンズも録音を行っています。狭く、急な階段を上がった先にあるのがそのスタジオで、階段と手すりも当時のまま。ストーンズのメンバーたちがこの手すりを使って上り下りしていた姿を想像すると、ファンにはたまりませんね。
ローリング・ストーンズが録音を行ったスタジオとしてファンの間では有名な場所。zoom
ローリング・ストーンズが録音を行ったスタジオとしてファンの間では有名な場所。
かつての録音機器の隣に飾られているベースは、財団に名前が残るウィリー・ディクソンが愛用していたもの。彼は、アメリカ音楽史を飾るソングライターのひとり。右側にこすれたような傷があるのは、演奏中にベルトのバックルが当たって付いたものだそうです。
スタジオ内には、かつての録音機器がそのまま残っています。左のベースはウィリー・ディクソンが愛用していたもの。右が、スタジオツアーの案内をしてくれたジャニーさん。zoom
スタジオ内には、かつての録音機器がそのまま残っています。左のベースはウィリー・ディクソンが愛用していたもの。右が、スタジオツアーの案内をしてくれたジャニーさん。
案内役のジャニーさんは小型スピーカーを手に、それぞれのスポットでゆかりのミュージシャンの曲を流しながら丁寧に説明してくれました。彼女の語り口からは、音楽に対する愛情とシカゴブルースの一時代を築いた先達たちへのリスペクトがあふれていることが伝わってきます。エピソードの一つひとつが1階のフォトギャラリーで見た写真とリンクし、華々しいスポットライトを浴びてステージに立つ往年のミュージシャンたちの姿が蘇ってくるようでした。
現在、スタジオ再建計画が進行中。この場所にストーンズのメンバーが集結する日が待ち遠しい。zoom
現在、スタジオ再建計画が進行中。この場所にストーンズのメンバーが集結する日が待ち遠しい。
スタジオ再建計画も進行中!
現在、この建物はブルースの振興と若手ミュージシャン育成を目的として設立された財団『Willie Dixon's Blues Heaven Foundation』により管理・運営されています。スタジオツアーのほか、サマーシーズンには毎週木曜日の18:00~19:30に、敷地内の庭でライブを開催。さらにスタジオ修復が予定され、バディ・ガイやローリング・ストーンズにレコーディングを依頼する計画もあるそうです。
「バディは高齢だから、急がないとね」とジャニーさん。実現すれば、ここからまた新たなシカゴブルースの歴史が始まるかもしれません。
●Willie Dixon's Blues Heaven Foundation(ウイリー・ディクソンズ・ブルース・ヘブン・ファウンデーション)
2120 S. Michigan Avenue, Chicago
www.bluesheaven.com

●協力
シカゴ観光局

choosechicago.com/jp
ユナイテッド航空 
www.uninted.com
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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