旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2018年11月16日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

シカゴブルース、初心者のための入門編 【連載】建築&アート、音楽と食を巡るシカゴの旅 Vol.10

『Maxwell Street Market』の路上ライブ。シカゴブルースは、こんな風にして生まれました。zoom
『Maxwell Street Market』の路上ライブ。シカゴブルースは、こんな風にして生まれました。
音楽好きな人なら、「シカゴといえば、ブルース!」とまっ先に声をあげるのではないでしょうか。
ところで、そのブルースって、どんな音楽なの? 洋楽にあまり詳しくない私に、今回の旅に誘ってくれた友人は、
「日本の音楽でいえば、炭坑節みたいなもの」とひとこと。
高校時代からブルースに親しんでいたという彼女の答えは、非常に明快でわかりやすいものでした。
「建築とアート、音楽と食を巡るシカゴの旅」Vol.10は、近代音楽のルーツといわれるブルースの、シカゴでの楽しみ方をご紹介します。

シカゴブルース発祥の地、Maxwell Street Marketへ
ブルースが誕生したのは、19世紀後半から20世紀はじめのアメリカ南部・ミシシッピ川を中心としたデルタ地域。この地域で働いていたアフリカ系アメリカ人が、労働の厳しさと貧しさからくる日々の憂さや家族への想い、恋愛の苦悩などを独特のリズムにのせ引き語りのように歌っていたものが、黒人社会に定着していったもの。
そう! まさに、「エ~ンヤコラ」の炭坑節の世界です。
そのブルースは、ここシカゴで大きな進化を遂げます。1930~50年代にかけて、アメリカ南部からニューヨーク、シカゴ、セントルイスといった北部の工業地帯へ、仕事を求めて移動した黒人労働者たち。彼らとともに、“ブルースマン”と呼ばれるミュージシャンたちも移住してきました。そして、アコースティックギターの弾き語りにエレキギターが取り入れられ、現在のようなバンド編成の原型ができあがったのが、ほかならぬこのシカゴなのです。
現在は場所を変えて開催されている『Maxwell Street Market』。お土産から日用品、食べ物の屋台も出店しています。zoom
現在は場所を変えて開催されている『Maxwell Street Market』。お土産から日用品、食べ物の屋台も出店しています。
シカゴブルース誕生の地、そして聖地のひとつともいわれているのが、かつての『Maxwell Street(マックスウェル・ストリート)』。この通りでは毎週、日曜日に野外マーケットが開かれ、古着、家具、日用雑貨や食べ物までなんでも売っていたといいます。当時のシカゴでは車のタイヤが盗まれると、
「日曜日にマックスウェルへ行ってみろ。きっとお前のタイヤが売っているぜ」というジョークまであったのだとか。
別名“泥棒市”とも呼ばれたマーケットの路上ライブが、じつはシカゴブルースの原点。初めてエレキギターの演奏が持ち込まれたのも、この場所だといわれています。

元祖Maxwell Streetは残念ながら閉鎖されてしまいましたが、現在は場所を変え、毎週日曜日に『Maxwell Street Market(マックスウェル・ストリート・マーケット)』と名付けられた野外マーケットが開かれています。売られているのは、お土産物、日用雑貨を中心に、音楽CD、そして泥棒市の名残りなのか、山積みのタイヤも!(もちろん、現在は盗品ではありません) ミュージシャンの路上ライブも健在です。
●Maxwell Street Market(マックスウェル・ストリート・マーケット)
800 S. Desplaines Street,  Chicago
毎週日曜7:00~15:00頃まで開催
オリジナルのMaxwell Streetは、整備された街並みに姿を変え、交差点近くに当時の写真入り看板を見つけることができます。zoom
オリジナルのMaxwell Streetは、整備された街並みに姿を変え、交差点近くに当時の写真入り看板を見つけることができます。
せっかくなので、オリジナルのMaxwell Streetにも足を運んでみました。現在、このあたりはイリノイ大学を中心とした学生街になっていて、かつて“泥棒市”と呼ばれた猥雑な雰囲気はありません。整然とした街並みの交差点に設置された当時の写真入り看板が、その名残をとどめています。

伝説のブルースシンガーの店『Buddy Guy's Legends』で、昼ブルース&ランチタイム
前置きが長くなってしまいましたが、本場のシカゴブルースを楽しめる、ブルース初心者にもおすすめのスポットをご紹介しましょう。1カ所は、シカゴブルース界の大御所のひとり、バディ・ガイがオーナーを務める『Buddy Guy's Legends(バディ・ガイズ・レジェンズ)』です。バディもまた、Maxwell Streetの路上ライブで腕を磨いたミュージシャンのひとり。82歳になった現在も現役で、時々ステージに上がることがあるそうです。私たちが訪れたのは、7月30日に誕生日を迎えた彼のバースデーパーティーの翌日。残念ながら本人に会うことは叶いませんでしたが、お店のスタッフがその近況を教えてくれました。
世界的に名を知られたブルースシンガー、バディ・ガイズの店『Buddy Buy's Legends』。店内には伝説のブルースマンたちの写真とともに、サイン入りの愛用品が飾られています。zoom
世界的に名を知られたブルースシンガー、バディ・ガイズの店『Buddy Buy's Legends』。店内には伝説のブルースマンたちの写真とともに、サイン入りの愛用品が飾られています。
土・日曜はお昼から深夜まで通し営業。昼間のステージに登場するのは若手ミュージシャンとのことですが、ケイジャン料理とともにライブを楽しめるとあって、ファミリーの姿も見られました。zoom
土・日曜はお昼から深夜まで通し営業。昼間のステージに登場するのは若手ミュージシャンとのことですが、ケイジャン料理とともにライブを楽しめるとあって、ファミリーの姿も見られました。
この店では、週末はお昼から深夜まで通しで営業をしていて、ライブもあります。伝説的な店でありながら、ランチとともにブルースを楽しめるのが魅力。初心者にはもちろんですが、シカゴでブルース三昧の時間を過ごしたい人にも、ぴったりなのです。
●Buddy Guy's Legends(バディ・ガイズ・レジェンズ)
700 S. Wabash Avenue, Chicago
buddyguy.com

観光スポット感覚で楽しめる人気店『House of Blues』
もう1軒は、シカゴを代表する観光スポットでもある『House of Blues(ハウス・オブ・ブルース)』。Vol.3でご紹介したシカゴ川のリバークルーズからも見えたトウモロコシのようなツインタワービル、マリーナ・シティ1階にあります。
ここは、全米でも有名なフランチャイズレストラン。「ハード・ロック・カフェのブルース版」といえばわかりやすいでしょう。
アミューズメントスポット感覚で楽しめる『Hose of Blues』。ステーキなどのメニューも豊富です。zoom
アミューズメントスポット感覚で楽しめる『Hose of Blues』。ステーキなどのメニューも豊富です。
エントランスを入ると、まるで劇場の入り口のようなドアが現れます。その手前には、シカゴブルースの存在が一般的に知られるきっかけとなった映画『ブルース・ブラザーズ』に主演した、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドの等身大人形があり、二人の間に座ってスリーショットの記念撮影がお約束。また、ノベルティショップの品ぞろえもなかなか楽しく、ここでお土産探しをするのもおすすめです。メニューはステーキ、ハンバーガーなどアメリカ料理が中心。街の中心部に近く、気軽に食事とライブが楽しめるスポットです。
●House of Blues(ハウス・オブ・ブルース)
329 N. Deaborm Street, Chicago
www.houseofblues.com

シカゴにはこんなふうに、名店と呼ばれる店でも昼間からブルースを楽しめるのが魅力。また、観光スポット感覚で気軽に立ち寄れる店でも本格的なライブを体験できるのは、この街の日常に音楽が欠かせないものであり、しっかりと根付いている証しに違いありません。

●協力
シカゴ観光局

http://choosechicago.com/jp
ユナイテッド航空 
www.united.com
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
risvel facebook