オーロラが見える北極圏は、サーメ人と呼ばれる先住民族が昔から住んでいた場所です。オーロラハンティングが旅の目的でも、せっかく外国に行くのですから、昼間もいろいろな楽しみがあってほしいもの。
サーメ人は人為的な国境とは無縁で、フィンランドにもスウェーデンにも同じ言葉を話す民族がいます。独特な言葉と生活文化をもつ彼らの暮らしを紹介する「Saami Village」がムルマンスクから車で2時間弱のところにありました。これがなかなか楽しいのです。
現在、ロシアには1600人のサーメ人が住んでいます。北欧それぞれの国が同化政策を採り、彼らに定住を促し、言語を含めて基礎教育を行った結果、村長さんのヴィタリク・クルットさん(50歳)が話すには、「ロシアではサーメ人の言葉を話せるのは私たちの世代までです」という。
昔ながらの家やフィールドの中、彼らの暮らしの一端を見せてくれるこの村で、サーメ人の伝統的な食事、遊び、生活を垣間見てきました。
他愛のない遊びではあります。例えば、スポーツならサーメ人式サッカー、ラグビー、棒引き。サッカーはトナカイの毛皮を丸めたボールを蹴って、ゴールを狙う。ラグビーなら、同じボールでも自分より後ろに投げる。そして、棒引きは、敵と相対している人だけが木の棒を持ちあい、後ろに続く人たちは味方のおなかに手をまわして後方に引っ張り、棒をどちらかが奪うというもの。でも、ロシア人の観光客は老若男女、かなり真剣にやるので、私たちも一緒に童心にかえって大騒ぎしました。
街中だけでなく、ここにも氷の滑り台がありました。相当スピードが出て、きゃぁきゃぁ言いながら、氷の上を滑りました。
トナカイのそりにも乗せてくれます。トナカイはサーメ人の「財産」だと言います。
冬には寒さのせいか生存率が下がり、60%だそうです。財産という割にはこき使われているようで、トナカイ4頭で人間6人を引いて、村のコースを2周するアトラクションがありました。雪原を走る爽快さは人間には忘れられない楽しさでした。ですが、人間をソリから下ろした後、トナカイたちは、赤い舌を出してへトヘトの様子。
トナカイの肉は食用になり、毛皮は敷物になり、無駄になるところがなく、人間にとっては確かに財産だと思いますが、彼らにとってはなかなか災難だなぁとも感じた次第です。
食事は鮭とポテトのシンプルな塩味ベースのスープ、トナカイの肉のシチュー、そして、ツンドラ地帯に生育する苔や植物を煎じた味の濃いお茶をいただきました。香辛料などはあまり使わないのか、どれも素材を生かした優しい味でした。
食事中、アイヌを彷彿とさせる色鮮やかな代々伝わる刺繍の帽子を見せてもらいました。女性がかぶる帽子の前面の模様は子宝に恵まれることを祈る意味、そして、後ろ側には夫の名前が書かれているのだそうです。