旅が非日常を楽しむものならば、ウィーンほど旅人に非日常の魅力を味あわせてくれる町は、他にないでしょう。今回のウィーンの旅、最後に今回宿泊した「グランドホテル・ウィーン」のご紹介を少々。
ウィーン1区。二頭立ての馬車が古めかしい建物の 前を通り過ぎます。
馬車の傍らを自動車が走っていても、タイムスリップしたような気分にさせてくれます。フルレングスのドレスの女性をエスコートするタキシードの男性という正装のカップルが国立オペラ座の前で降り立つ風景も自然です。そのオペラ座まで1ブロック、抜群に便利なロケーションと快適な滞在でウィーンを満喫できるのが、「グランドホテル・ウィーン」です。
オペラ座の周辺には歴史あるホテルが何軒も建っていますが、グランドホテルもウィーンを代表するホテルの一つ。1870年5月10日、ウィーンで最初のグランド ホテルとして創業しました。 ホテル名もグランドホテルですが、ここでいう「グランドホテル」とは、ウィーンの社交界における中心地として、かつては貴族や王族が集まり、パーティを行い、夜を明かす場所だったという意味です。グランドホテル・ウィーンは、当時予約の最も取りにくいホテルとして、たいへんな人気だったそうで、1894年にはワルツ王ことヨハン・シュトラウスが50歳の誕生日を祝ってコンサートを催しています。
私は正直、仕事の取材もプライベート旅行も、一日中外出して、どんなに素晴らしいホテルでも、宿は寝るだけという場合がほとんどです。ところが、今回、ホテルにいる時間が少しできました。
「今日は夕方4時にホテルに戻り、フロント前に5時半に集合しましょう。ホテルの最上階7階のミシュランレストラン「Le Ciel」で食事をしてから、コンツェルトハウスで行われるコンサートに行きましょう。そこまでは歩いていきます。10分もかかりませんから。ロングドレスでなくてもよいですが、我々男性陣はタキシードですので、皆さん、オシャレしてきてね」とのこと。
さすがウィーン。ロングドレスで通りを歩けるなんて、やはりドレスアップが似合う町ですね。そして、グランドホテルのロケーションの良さをあらためて感じました。
「着替えとお化粧なら15分もあればOKなのに、ホテルで1時間半も何をしていたらよいのかしら」と考えながら、夕方、部屋に戻りました。
グランドホテルが歴史的に重要かつ品格のあるホテルであることは、ロビーに入った瞬間、シャンデリアや階段のホール、デザインされたフロアのタイルを見れば、誰もが感じるところでしょう。175室は現代ではほどよい大きさで、我が家というと大げさですが、アットホームな雰囲気のホテルです。階段や廊下のあちこちに蘭の生花を絶やさない心配りも素敵です。あらためて部屋を眺めてみると、シルクの壁紙とアンティーク家具でクラシックに装飾された内装の高い天井、窓から眺める美しいウィーンの街並みだけで、お姫様気分を味わえます。
スパにも行ってみました。スチームバスはLEDライトやお洒落なタイルで彩られ、リラクゼーションゾーンはカップルでゆったり過ごしたくなるような静謐かつ高級感があります。部屋をのぞいた瞬間、待ち合わせまでの1時間半ではもったいないので、日を改めてやって来ようと思いました。
いろいろな意味でおススメのホテルですが、4つあるレストランは特に日本人好みだと感じました。かつてこのホテルを全日空ホテルが所有していた時代がありました。それも好影響しているのか、「雲海」という和食レストランは本格的。ビュッフェスタイルの朝食会場にも、ご飯とお味噌汁、納豆まであり、感激ものです。朝食ビュッフェのバラエティーも豊富。スマホで朝食の写真を撮影していると、スタッフが「お客様も一緒にお撮りしましょうか」とフレンドリーに声をかけてくれます。こうしたコミュニケーションは、大型すぎるホテルでは宿泊客も多すぎるせいか、なかなかありません。
そして、夕食を取ったミシュラン1つ星、フランスの美食グルメガイド「ゴー・ミヨ」で2つのコック帽を獲得したシェフのトニー・メルヴァルト率いる「Le Ciel」も上品で居心地の良いレストランでした。スイーツというといろいろ思い浮かぶオーストリアですが、お料理というと、がっつり、量も大盛りの肉料理かなと思っていましたが、メルヴァルト氏の創作する世界は、ボリュームも日本人にとってはちょうどよく、遊び心いっぱいのインターナショナルキュイジーヌ。食事の最後にご挨拶に訪れた彼は、控えめではにかんだ笑顔が印象的な方でした。
グランドホテルでの滞在が、ウィーンの思い出をさらに洗練された暖かいものにしてくれること請け合いです。
Grand Hotel Wien
Kärntner Ring 9 , 1010
Vienna, Austria