旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2017年10月26日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

カナダ・ケロウナのワイン街道を巡る ~その3:個性的なスモールワイナリ―発掘が楽しい!

ランチを楽しめる『Indigenous World Winery(インディジニアス・ワールド・ワイナリー)』のテラス。zoom
ランチを楽しめる『Indigenous World Winery(インディジニアス・ワールド・ワイナリー)』のテラス。
南北約135kmに渡って横たわるオカナガン湖の湖畔に、公開ワイナリーだけでも40軒以上が点在するブリティッシュ・コロンビア州のケロウナ。家族経営の小さなワイナリーが多いこと、ロケーションによって栽培されるブドウの品種が変わってくるため、それぞれ個性が異なるワインが作られていることも特徴です。

ファーストネーションズ(先住民族)にこだわるワイナリー

そのなかで、『ファーストネーションズ』と呼ばれるカナダ先住民族の子孫が立ち上げたたのが、『Indigenouse World Winery(インディジニアス・ワールド・ワイナー)』です。多民族国家のカナダでは、100%先住の人たちで運営する企業はとても少ないといいます。先祖からの土地と農法を守りながらワイナリーの利益を先住民族のコミュニティに還元し、文化継承に役立てることも目的としているとのことでした。
案内してくれたマネージャーのライアンさんと、2017年のワインコンクールで金賞を獲得したロゼワイン。zoom
案内してくれたマネージャーのライアンさんと、2017年のワインコンクールで金賞を獲得したロゼワイン。
マネージャーのライアンさんに、ブドウ畑と醸造室を案内してもらいました。ここでは現在、3種類のマスカットを栽培しています。2014年からワイン造りに取り組み、2016年5月にワイナリーをオープンしたばかりでありながら、2年目の夏を迎えた2017年にはサンフランシスコで開催された国際ワインコンクールでロゼワインが金賞の栄誉に輝いています。収穫量が少ないため、現在は3種類のマスカットを混合して作っているそうですが、ブドウの木が成長する2~3年後には単一品種で作ることができるようになるだろうと語ってくれました。

春から秋のお楽しみは、テラスでのランチタイム
テイスティングルーム(上)と1階のパティオ(下左)。ディナーを楽しめるレストランも。zoom
テイスティングルーム(上)と1階のパティオ(下左)。ディナーを楽しめるレストランも。
ブドウ畑とオカナガン湖を見渡せるテイスティングルームの外のテラスでは、ランチを楽しむことができます(冒頭の写真)。チーズとサラミのプレートを囲み談笑するご夫妻に声をかけたところ、快く写真を撮らせてくれました。
「バンクーバーから夏の休暇でオカナガン湖に来たの。たまたま通りかかったら素敵なロケーションだったから、立ち寄ってみることにしたのよ」と、奥様のほうが話してくれました。
収穫シーズンには、ここからブドウの摘み取りの様子を眺めながら、ワインと食事を楽しむことができるそう。テラスは春から秋のみの営業になりますが、階下には通年営業のレストランもあります。

●Indigenouse World Winery(インディジニアス・ワールド・ワイナリー)http://indigenousworldwinery.com

自然農法と最先端の建築が自慢、ケロウナ最古のブドウ園をもつワイナリー

ヨーロッパに比べるとケロウナのワイン造りの歴史はそれほど古くありません。そのなかで最古のブドウ畑から採れたブドウでワイン造りをしているのが『Tantalus Vineyards(タンタラス・ヴィンヤード)』です。1927年に創業した『Pioneer Vineyard(パイオニア・ヴィンヤード)』が母体で、現在の会社は2004年に設立されたもの。1920年ごろから栽培を続けている、ブリティッシュ・コロンビア州で最も古くからブドウ栽培を続けている畑をそのまま引き継いでいます。
除草剤、農薬は一切使わず、自然栽培にこだわるブドウ園。ときには野生動物が出没することも。zoom
除草剤、農薬は一切使わず、自然栽培にこだわるブドウ園。ときには野生動物が出没することも。
湖の東岸にあたるこの場所は、前回のコラムでご紹介した『Summerhill Pyramid Winery(サマーヒル・ピラミッド・ワイナリー)』に近く、乾燥して昼間と夜の寒暖差が大きいのが特徴。その気候を利用して、リースニング、ピノノワール、シャルドネを多く栽培しています。

ブドウ畑にシカ、クマ、コヨーテが出没!?

ブドウ畑の一部には10エーカーの広さの森林があり、ここに生息する動物たちが時々出没することがあるのだとか。野生のネズミやシカ、ときにはクマ、コヨーテなどが姿を現すこともあるといい、まさに大自然の中のブドウ園です。
自然環境に配慮した建築物を評価する『LEED』の認証を受けたワイナリーと、収穫直前のブドウ。zoom
自然環境に配慮した建築物を評価する『LEED』の認証を受けたワイナリーと、収穫直前のブドウ。
そんな自然を守るために取り組んでいるのが、除草剤や農薬を一切使用しない自然栽培。敷地内に約50のミツバチの巣箱が置かれていることもあり、ミツバチへの影響も考えてのことだそうです。また、テイスティングルームと醸造室を含む建物は環境に配慮した建築物を評価する、米国グリーンビルディング協会の基準のひとつ『LEED』の認証を受けています。
高い天井が特徴のテイスティングルームは、室内の温度が上昇すると自動的に天窓が開き温度を調節します。zoom
高い天井が特徴のテイスティングルームは、室内の温度が上昇すると自動的に天窓が開き温度を調節します。
ブドウ畑と醸造室を見せてもらい、建物の設計に関するお話を伺った後、スパークリングワインとシャルドネ、アイスワインのテイスティングをさせていただきました。スパークリングは、舌に優しい微炭酸。シャルドネはフランス製の樽で12カ月熟成させたもので、わずかにナッツの香りが感じられました。アイスワインは、真冬の夜中の3時にヘッドライトを付けて手摘みで収穫したブドウで造ると聞き、その希少性に納得。ワイン造りに適した地形と気候に恵まれたケロウナですが、この自然環境を守り続けるため多くの人の情熱とともに、労力があってこそワインもあることを知りました。
●Tantalus Vineyards(タンタラス・ヴィンヤード)
http://www.tantalus.ca

日本ではまだ、あまり知られていないブリティッシュ・コロンビア州ケロウナのワイナリー巡り。小さなワイナリーが多いだけに、そのなかから自分の好みに合う1軒を発掘するのは、ワイン好きにとってこの上のない楽しみになるはず。現地ではブドウの収穫シーズンが終わり、そろそろ2017年産のワインのリリースが待たれるころ。今年の出来栄えも気になります。お気に入りの1本を探しに、ケロウナを訪れてみてはいかがですか?

取材協力:
カナダ観光局 http://jp-keepexploring.canada.travel
カナダシアター https://www.canada.jp
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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