旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2017年7月31日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Time Machine in Vietnam

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Brave girl, you were made for far more beautiful things.
Chaos is only understood when it’s loved by the wild, not weak.
(Zachry K. Douglas)

2017年Summer, I’m at Hoi-An in Vietnam.
On the same day last year, never would have thought walking here alone.
Happy? Please be happy more than I imagine. Don’t worry be wild & freedom.
Believe me, I love you anyway. The travel blog contribute to the journey of happiness.
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Hoi-An旧市街の真ん中にあるcaféーWhite Marble Wine Barよりブログを書いています。
ウォンカーワイ監督の映画2046を見たことがあるでしょうか。道を挟んでお店の向かいから、素敵なカップルの写真を撮っているとき、相手の話は聞こえなくて、ただ彼らの忘れたくない思い出が止まっているようでした。
「2046に行く列車に乗る全ての客の目的は、無くした記憶を見つけるため。なぜなら2046では何も変わらないから。」
木村拓哉のナレーションで始まるこの美しい映画は目の前の情景にぴったりです。
もし誰かが2046から出ようとしたらどれだけの時間がかかるんだろう。簡単に出ていける人もいる。でも人によってはかなりの時間がかかる。もうどれくらこの電車に乗っているのか忘れてしまった。だんだん寂しくなって来た、ー映画の第1章に続きます。
所為的記憶都是潮潟的ーAll memories are traces of tearsと訳されてますが、漢字から察するに、思い出は潮のように満ちてはひくもの、ということなのではないかと思っています。どれくらいかかったらこの恋しい想いがただの記憶になるのかしら。
歴史の交錯する複雑な街Hoi An。
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また違う日は、かわいい女の人が座っていた。
Hoi-Anはベトナムの中央辺りに位置する古い港町です。ここがタイムマシンの街な理由は、歴史的な背景があります。フランスの統治下にあった影響で、カラフルで西洋風の可愛いいおうちやカフェの文化が残り、ベトナム戦争時代に破壊されることがなかった旧市街は美しい中国文化が保存されていて、夜道を照らす大きな中国風の提灯は幻想的に古い運河に映し出されています。

蒸し暑いカフェにて、バナナの春巻きとcoffeeを注文しました。
ベトナムでcoffeeを飲むことははフランスから入って来た習慣で、FrenchPressの小さい版みたいなPhinと呼ばれるフィルターをカップの上に乗せてひとつづつ淹れます。Phinはお土産に買って来てキッチンに置いていますが、おもちゃみたいで可愛くて気に入っています。豆の甘い香りは、焙煎の後にバニラやココアバターのオイルで香りづけをするからだそうで、口当たりがちょっともったりするのはこのオイルのせいみたいです。マーケットでは、ベトナムでいちばん流通しているTrung Nguyen No.1という豆を買って来ました。Arabica種、Robusta、Chari (Excelsa), Catimorのブレンドです。同じ会社で製造しているKopi Luwak(ジャコウネコの体内で発酵された豆)が有名ですが、挑戦しませんでした。コーヒーが好きなことと、コーヒー研究者とは違うしね、と理由をつけましたが、やっぱりイタチのウンチを加工した茶色い飲み物は飲めません。バナナのパンケーキは米粉の入ったもっちりクレープで毎日食べたいっとホテルの朝食はこのためにとても楽しみでした。
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記憶でも場所でも、”旅をすること”を考えているとき、ふと隣の国ミャンマーのロヒンギャ族(Rohingya people)の新聞記事が目にとまりました。国内外を移動する旅券がないので、ある地域を出たら、難民になること。この民族は、自分の境遇をどう感じるのか想像がつかず、人間の安全保障というテーマで勉強をした大学時代、こんな風に東南アジアのカフェで現実の問題として考える日が来るなんて思いませんでした。タイにはロヒンギャ族の人身売買収容所が存在すること、日本にも少数のロヒンギャが住んでいることはWikipediaな事実ですが、ノーベル平和賞をもらったアウンサンスーチーさんは、この民族問題を認めていないことを改めて知るのでした。
旅をすることや、違う国で暮らす経験に救われることは、私を取り巻く日常の世界が全てではないと知っていることです。そして同じことは、実は先日お亡くなりになった小林麻央さんのブログから心に留めたもの。何かに窮屈に思う時も、頑張ってここを乗り越えて強くなれば自分の力で行きたい場所へ行けるはず、と思うことで心が自由になります。私が旅先で書いているのは、小さなお気に入りのカフェの記事ですが、今日通り過ぎた知らせなければいけないこと、のような気がして書き残しておきます。また何か苦しい想いをしている人にも、外の世界があることが伝わる旅のブログになりますように。
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同じカフェにて。隣に座った女の人はひとりでよく冷やしたroséを飲んでいます。この街の外国人観光客は驚くほど多くて、ここがどこだかわからなくなるのはそのせいでもあります。去年の今頃、私はイタリアを旅行していました。波打ち際でキャンプをして、雷鳴轟く崖の上の教会で嵐が過ぎるのを待ちながら目下の船の数よりも多くのキスをして、毎朝彼とエスプレッソバーで地図を開きその日の目的地を決めていました。イタリアに行きたいなと思っていたら、この女性が私はイタリア人と結婚をしたのよ、と話してくれました。The world is just down the street. オーストラリアに住んでいるという彼女は、自分の国を車で横断しようとすれば8時間かかるけど同じ時間でヨーロッパにも行かれるし、ベトナムから香港なんて数時間、あなたの行きたいところもそんなに遠くではないのよ、と言ってくれました。

そして同じタイミングで、イタリア人の友人が婚約したという報告がありました。
ーcongratulazioni, sono felice per te.
ーMai avrei pensato! Viva l amore
おめでとう、とても嬉しいよ。こうなるなんて予想していなかったんだ、Viva l amore.

つぎつぎに寄せられるコメントが微笑ましすぎて、自分までちょっと嬉しいカフェ時間。このニュースで結婚をする彼は、大好きなイタリア人シェフで、彼のレストランでイタリアに恋したときめきの瞬間をは忘れられません。彼の最初の奥さん(とても美しく素敵な人です。)との子どもロレンツォを抱き上げて、Che Amore、と呼んだこと。その発音と、目の前の温かい光景に感動したのでした。もうなくなってしまったのだけど、彼がアムステルダムに持っていた小さなデリは、私の夢のお手本です。世界中をいっぺんに幸せにしなくても、大切な人と美味しい香りに包まれて、目の前に今日の幸せが詰まっている場所。カフェの記事を書いていて、雰囲気を真似した良さそうなThird wave cafeはたくさんあっても、ああ今日もここに来て幸せだわと思える場所は少ないので、このブログにあげたカフェたちは世界中でも特別な場所ばかりです。

ベトナムでコーヒーを入れるフィルターのPhinzoom
ベトナムでコーヒーを入れるフィルターのPhin
When people had secrets they didn’t want to share anybody,
they’d climb mountains, find a tree and carve a hole in it, and whisper the secret into the hole. Then cover it over with mud. That way, nobody else would ever know.
- I once fell in love with someone.
After a while, she wasn’t there. I went to 2046, I thought she might be waiting for me there, but I couldn’t find her. I can’t stop wondering if she loved me or not. But I never found out. Maybe her answer was like a secret that no one else would ever know.

-I always...I have a secret to tell you.
-Leave with me.

Film: “2046" by Wong Kar Wai (2004)

HoiAn旧市街 (ユネスコ世界文化遺産に登録されている。ダナン空港から車で約40分。)
https://en.wikipedia.org/wiki/Hội_An

White Marble Wine Bar: Restaurant 
Address: 98 Le Loi Street, Hoi An ancient town, Vietnam
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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