旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2017年6月5日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

英国産スパークリングワインで、初夏のイギリスを訪れた気分に

世界的に高い評価を得て、日本でも注目度が高まるイギリス産のスパークリングワイン。zoom
世界的に高い評価を得て、日本でも注目度が高まるイギリス産のスパークリングワイン。
空前の泡ブームに沸いた昨年の夏に続き、今年もスパークリングワインのシュワシュワ感が恋しい季節になりました。そのスパークリングでイギリス産というとどんなイメージをもちますか?

以前、「イギリスの食べものは格段に美味しくなっている」という内容のコラムを書きましたが、ワインもしかり。このところ、ヨーロッパ各国はもとより日本のワイン好きの間でもイギリスのスパークリングワインへの注目度が高まっているのだそうです。ブラインドのテイスティグでかのシャンパーニュに勝利したり、英国王室の晩さん会では各国のVIPにふるまわれ、とても好評だったとか。本国から来日中のスパークリングワイン生産者さんから直接お話しを聞きながら試飲をする機会があり、初夏のイギリスを訪れた気分を楽しんできました。
来日したボルニー社のサマンサ・リンターさん(左)と、ディグビー社のトレッヴァー・クラウさん。zoom
来日したボルニー社のサマンサ・リンターさん(左)と、ディグビー社のトレッヴァー・クラウさん。
今回来日したのは、イギリス南東部にワイナリーを構える『BOLNEY Wine Estate(ボルニー・ワイン・エステイト社)』、『DIGBY Fine English(ディグビー・ファイン・イングリッシュ社)』。
イギリスにおいてスパークリングワインの主要な産地であるこのエリアは、フランスのシャンパーニュ地方によく似た気候と土壌なのだそう。もとは白ワインの生産からスタートし、その土地の職人による伝統的な製法で細部にまでこだわり抜いたワインづくりが行われてきたこともあり、近年は高品質の赤ワインやロゼもつくられるようになっています。また、現在では年間平均500万本のワイン生産量のうち、3分の2近くをスパークリングワインが占めているのだそうです。

そのなかで、イギリスを代表する老舗ワイナリーであり、40年以上前からこの国の最前線でワインづくりに取り組んできたのが、ボルニー社です。1972年、創業者のジャネット&ロドニー・プラットさん夫妻が1.2haの土地にブドウの植樹を始めた当時、ほかにたった5カ所のブドウ園しかなかったとか。その後、同社のブドウ園は5.6haにまで拡大し、2005年には最新式の醸造所が完成しました。

お話を聞かせてくださったのは、その創業者夫妻の娘であるサマンサ・リンターさん。醸造家であり、現在は取締役社長を務めます。
「わが社は3世代にわたるファミリー企業です。冷涼な気候とブドウ栽培に適した土壌のうえ、収穫はすべて手作業。ていねいに選別し、伝統的な製法を用いてつくっているんですよ」とサマンサさん。
ブドウ栽培に最適なイギリス南東部の南斜面に開けたボルニー社のブドウ畑。zoom
ブドウ栽培に最適なイギリス南東部の南斜面に開けたボルニー社のブドウ畑。
「Blanc de Blancs(ブラン・ドゥ・ブラン)」、「Kew English Sparkling(キュー・イングリッシュ・スパークリング)」の白とロゼの3本を試飲させていただきました。
シャルドネ100%からつくられた「ブラン・ドゥ・ブンラ」は、細かい泡立ちと甘い花のような香りが特徴。「キュー・イングリッシュ・スパークリング」の白は、ピノ・ノワールにわずかのピノ・ムニエを加え、香りはフルーティだけどすっきりとした辛口。時間をかけてていねいに圧縮しているため、ブドウ本来の風味を味わえます。また、ピノ・ノワール100%でつくられたロゼのほうは、フランスの著名なスパークリングワインの大会で、シルバー賞を受賞した実績を持つ1本。ドライベリーのような深い余韻を感じました。
試飲したボルニー社のスパークリングワインと、醸造家で社長も務めるサマンサさん。zoom
試飲したボルニー社のスパークリングワインと、醸造家で社長も務めるサマンサさん。
老舗のボルニー社に対し、もう一方のディグビー社は、「イギリスのスパークリングワインを世界最高峰の地位に押し上げる」という理念のもと、トレヴァー・クロウさんとジェイソン・ハンフィリーズさんが立ち上げた比較的若い会社。社名の「DIGBY」は、1630年代に現代のワインボトルの形を発明したイギリス人、ケネムル・ディグビー(Kenelm Digby)にちなんだものだそう。2013年にイギリス産スパークリングワインをイギリスで初めて流通させた、革新的なワイナリーです。

自社のブドウ園をもたないディグビー社では、イギリス南東部でも世界的に高い評価をもつ生産者たちとの関係を築き、契約農家から買い付けたブドウをブレンティングしたワインづくりを行っています。歴史は浅いものの、デビュー作「レゼルヴ・ブリュット2009」が2014年、世界で最も権威ある泡のコンクールで初出品ながらイギリス産として初めてのトロフィー獲得という快挙を成し遂げました。
これによりディグビー社の名は世界に知られるところとなり、ミシュランの三つ星レストランやロンドンの五つ星ホテルに提供され、ブリティッシュ・エアウェイズのファーストクラスにも採用されています。
ワイン界に彗星のごとく現れたディグビー社の創業者、トレヴァー・クロウさん(左)とジェイソン・ハンフィリーズさん。ピンクのカバのロゴがキュートなロゼは、日本の女性にも人気が高まりそう。zoom
ワイン界に彗星のごとく現れたディグビー社の創業者、トレヴァー・クロウさん(左)とジェイソン・ハンフィリーズさん。ピンクのカバのロゴがキュートなロゼは、日本の女性にも人気が高まりそう。
試飲したのは「レセルヴ・ブリュット2009」、「ブリュットNV」、「リアンダー・ピンクNV」の3本。「レゼルヴ・ブリュット」は、さきの大会で世界的なシャンパーニュ評論家から「Best English Sparkling Wine」の称号を与えられた1本。クリーミーで細かな泡と、酸味とふくよかな甘さとのバランスが絶妙。「ブリュットNV」はクリーミーな泡立ちとミネラル感に富み、本国イギリスではアフタヌーンティーのお供にも人気だそうです。

そしてラベルにピンクのカバが描かれた「リアンダー・ピンクNV」は、イギリスのソムリエ・ワイン・アワードでイギリス産スパークリング・ロゼのなかで唯一、ゴールド賞を獲得しました。バラにもイチゴにも似た余韻とかわいらしいラベルが、とくに女性から支持を得ています。
ボロニー社とディグビー社のワインづくりにかける想いを、直接お聞きすることができた試飲会でした。zoom
ボロニー社とディグビー社のワインづくりにかける想いを、直接お聞きすることができた試飲会でした。
ワインのテイスティングの機会はこれまでにもありましたが、スパークリングだけを6本も比べて飲んだのは今回が初めてです。そんなにワインに詳しくない私でも、泡の細やかさ、ミネラル感、酸味と甘さのバランスの違いを感じることができました。イギリスにこれだけの種類のスパークリングワインがあり、世界的に高い評価を得ていることを初めて知りましたし、さらに現代のワインボトルの形を発明したのがイギリス人であったことも、興味深いエピソードでした。

地球温暖化の影響もありブドウの栽培地が北上したことで、ワインづくりに適したブドウ栽培が容易になったうえ、優れた醸造家が次々と誕生しているというイギリス。これまでシャンパーニュに代表されるフランスに加え、イタリア、スペイン産のイメージがあったスパークリングワインに、イギリス産が並ぶ日は近いかもしれません。

今の時期のイギリスは一年で最も気持ちよい季節。そんな初夏の風景を思い浮かべながら、この夏はイギリス産スパークリングワインを楽しんでみてはいかがでしょうか。

●BOLNEY Wine Estate(ボルニー・ワイン・エステイト社)
www.bolneywineestate.com


●DIGBY Fine English(ディグビー・ファイン・イングリッシュ社)
www.digby-fine-english.com
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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