旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2018年1月2日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ハワイで御朱印!? 日系人の暮らしが今も息づく癒しスポット

ハワイ出雲大社でいただいた御朱印。まっ赤なハートにきりりとした墨文字が鮮やか!zoom
ハワイ出雲大社でいただいた御朱印。まっ赤なハートにきりりとした墨文字が鮮やか!
2018年、新しい年が始まりました。
日本のお正月といえば、1年の幸せを願って神社仏閣にお参りする初詣が欠かせない行事のひとつ。日系人が多く暮らすハワイにも日本の神社の分院がいくつかあり、新年には日系人を中心に多くの人が参拝に訪れています。

そのひとつが、ハワイ出雲大社(出雲大社ハワイ分院、Izumo Taishakyo Mission of Hawaii)です。
じつは私は島根県の出身。島根県出雲市にあるご本家のほうには小さい頃から家族や友人と何度となく足を運んでいたのですが、ハワイの分院へはなかなか訪れる機会がなく、ハワイ出雲大社の開設110年を迎えた2016年の夏、初めて参拝することができました。

創祀110年の歴史をもつハワイ出雲大社

ハワイ出雲大社があるのは、“ホノルル市民の台所”と呼ばれるチャイナタウンからヌウアヌ川を渡った対岸。川の向こう側には人気の飲茶レストランやペトナム料理店が並び、広場でマージャンやカードに興じる中国系の人たちの姿が見えます。
ハワイ出雲大社の鳥居。大戦中に没収され戦後、神職をはじめとした多くの方の尽力により復興されました。zoom
ハワイ出雲大社の鳥居。大戦中に没収され戦後、神職をはじめとした多くの方の尽力により復興されました。
ハワイに出雲大社の分院が開設されたのは、1906(明治39)年。日本とハワイの間で結ばれた移民条約により政府の許可を受けた、いわゆる「官的移民」が初めてハワイへやって来たのは1885(明治18)年のこと。その後、民間の移民斡旋会社が設立され、1908(明治41)年の移民形態が終了するまで約10万人の日本人がサトウキビプランテーションやコーヒー農園の労働力として送り込まれました。
この人たちへの神道普及を目的に設立されたハワイ出雲大社は、当時のハワイ政府より正式な法人認可を受け大社造りの社殿が完成。日本の本院からも教管長一行が来布するなどして盛大な祝祭が執り行われていたといいます。

日米開戦によりすべての活動を停止

日系移民の心のよりどころとなり、日本文化の象徴的存在として栄えたハワイ出雲大社ですが1941(昭和16)年、第二次世界大戦の日米開戦により全活動の停止を余儀なくされます。神殿を含むすべての財産を没収、神職の身柄も拘束されました。
対岸は人気の中国料理店があるChinatown Cultural Plaza(チャイナタウン・カルチュラル・プラザ)。 zoom
対岸は人気の中国料理店があるChinatown Cultural Plaza(チャイナタウン・カルチュラル・プラザ)。
戦後、収容所より帰還した当時の分院長により仮社殿が設けられましたが、社殿が返還されるまでにはさらに10年間の長きに及ぶ法廷闘争があったとか。現在、ハワイの風土に溶け込み、観光客も多く訪れるようになった神社には、こんな歴史があったのです。

早朝の祈祷に参加し、御朱印をいただく

ハワイ出雲大社では毎朝8時半から本殿で祈祷が執り行われます。誰でも参列できると聞き、本殿に上がらせていただくことに。参列者にはローカルの日系人と思われる人のほかに、欧米人らしき風貌の人も見受けられます。とても厳かな雰囲気の本殿内ですが、アロハやTシャツというラフな服装が多いのがハワイらしいところでしょうか。
レイをつけた狛犬が迎えてれます。zoom
レイをつけた狛犬が迎えてれます。
祈祷を受けた後、社務所に立ち寄り御朱印をいただき、神職の天野大也さんにお話を伺うことができました。
近ごろの御朱印ブームもあり、“御朱印女子”の間でここの御朱印は大変な人気なのだとか。トロリーバスやツアーバスが到着する時間帯には社務所に長蛇の列ができ、20~30分近く待たなければならないこともあります。友人や家族のぶんもと、お守りを求める日本人観光客が少なくないそうです。

「御朱印は参拝の方にのみ、1冊ずつ手書きでお渡ししています。お土産ではないので、おひとりに何冊も授与することはできないのですよ」
と天野さん。自ら足を運び、ていねいにお参りをしてからいただくからこそ、御朱印の価値があるのですね。
本殿で毎朝8時30分から約10分間行われる祈祷には、誰でも参列できます。zoom
本殿で毎朝8時30分から約10分間行われる祈祷には、誰でも参列できます。
境内のすがすがしい空気を吸いながら時間を過ごし授与していただいた御朱印は、きりりとした墨文字に添えられたまっ赤なハートが鮮やか! 厳かななかにも南の島らしいおおらかさが伝わってきます。昨年、再び参拝の機会があり、新しい御朱印もいただきました。

日系人の心のよりどころとして古き良き日本の心を伝え続けるハワイの神社

ハワイには出雲大社以外にもいくつかの日本の神社の分院が開設されています。代表的なものはビショップ博物館に近いカリヒ地区にあるハワイ金刀比羅神社とハワイ大宰府八幡宮。また、サウス・キング・ストリートのオーガニックスーパー、Down to Earth(ダウン・トゥー・アース)前にある厳島神社の大鳥居は2001年、日系移民を多く送り出した広島県から友好の証に贈られたものです。
御朱印帳はピンクとグリーンの2種類。持参した御朱印帳や、書置き(別紙)でいただいくこともできます。zoom
御朱印帳はピンクとグリーンの2種類。持参した御朱印帳や、書置き(別紙)でいただいくこともできます。
以前、ハワイで取材のお手伝いをしてくれた日系二世の女性のご実家が、ハワイカイに近い小さな神社だったことを思い出しました。一度お参りしたことがあり、日本語で書かれたおみくじも引かせていただきました。
「ひらがなとカタカナは読めるけど、漢字は得意ではないの」
と話す彼女のお宅では、ご両親との会話は日本語、姉妹間では英語を使っているとのこと。しかし、その日本語がとてもきれいなうえ、素晴らしく細やかな気遣いに驚きました。古き良き時代の日本が今もハワイに息づいていることに感動したものです。

ハワイに根付くアロハ・スピリッツと、日本人がもつ心づかいには共通する部分がいくつもあるように思います。心地よい空気と美しい海はもちろんですが、そんなところも多くの日本人がこの島にひかれる理由のひとつに違いありません。

今年もたくさんの日本人旅行者がハワイを訪れることでしょう。そのすべての人に、素晴らしい体験と時間がありますように!


●Izumo Taishakyo Mission of Hawaii
ハワイ出雲大社(出雲大社ハワイ分院)
215 North Kukui St., Honolulu
TEL 808-538-7778
8:30~17:00(社務所受付時間)
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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