トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2016年3月14日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

エリス島が呼んでいる

1、薄暗く色のない乾いた小さな部屋に女といた。

ともすればスカーレットヨハンソンだったが、時が女の色気のほとんどすべてを持ち去ってしまっていた。とはいえ、彼女にまったく魅力がないわけではなかった。彼女のたたずまいはどこか知的だったし、屈託のない笑顔は僕に静穏をもたらしたし、黄土色の長い髪も見ようによってはじゅうぶん彼女のチャームポイントとなり得よう。少なくとも、彼女が空間に放つ温度に邪悪な違和は感じなかった。これは人見知りの激しい僕にとってとても珍しいことだ。

床に置かれた卓上ライトとシングルサイズの古びたマットレスが、この部屋にあるものの大凡すべてだった。やることは決まっていたが、僕はまったくその気になれなかった。僕たちは服を着たまま寝転がって、何をするでもなく、ただ静かに時を過ごした。僕の心は安らかで、満たされていた。彼女が何をどう思っていたかは知る由もない。
2、体育館のような広いスペースにスチール製の椅子が乱雑に並べられていた。

人々の話し声が高い天井に跳ね返って空中で混ざり合い、石の床に濃い影を落としていた。人々はみんな何かを待っているようだった。大きな病院の待合室のようでもあったが、彼らはどうも病人には見えなかった。スーツケースやコート姿はおそらく旅行者なのだろう。しかし、波止場にしては海の存在が感じられない。かといって鉄や石炭の匂いがするわけでもない。もしかして移民局だろうか。いや、あそこの床は木製だ。

ブルースブラザーズみたいな格好をした男たちのグループが近寄ってきて僕らを取り囲んだ。どいつもにやにやしやがって気分が悪い。短髪で小太りの白人が一歩前に出て自信満々の態度で彼女に話しかけた。

「ねえ、俺たちといっしょにパーティーに行かないかい?このジェントルマン(僕のことだ)みたいないい男がたくさんいるんだ。」

彼女は3秒ぐらい考えて、いいわと返事した。
夢というのは本当に不思議なものですね。何でこんな夢をみたのか自分ではさっぱりわかりません。物語は2部構成になっていて、登場人物(つまり「僕」と「女」)は共通しています。どうもストーリー1と2の間には2年ぐらいの時間が挟まれているようなのですが、そこで何があったかはまったく語られていません。舞台はアメリカで、後半の体育館のような広いスペースはエリス島の移民局であるようです。ただ夢の中でも示唆されているように、移民局の床は石造りではなかったようですし、四方を海に囲まれた小さな島に海の気配がないというのも不自然な気がします。

ニューヨーク周辺は何度も訪れていますが、残念ながらエリス島に行ったことは(行きたいと思ったことも)1度もありません。思えば自由の女神を見た記憶すらない。一般的な旅行者とは視点が違うのか、下ばっかり見て歩いてるのか。

それにしても、きのうまでまったく興味のなかった土地のことが、今日はもう気になって気になってしょうがない。くりかえしになりますが、夢というのは本当に不思議なものです。なわけで今日は、僕の「行きたい土地」リストに「エリス島」を追加。

今回は「行ってみたい」というよりは何だか「呼ばれている」ような気がします。というお話でした。夢と現実を旅でつなぐって、何だかポエティックで素敵だと思いませんか?
追伸:夢の中の会話はぜんぶ英語でした。セクシーじゃないスカーレットヨハンソンさんの英語には独特のなまりがありました。いつかまた会えるかな。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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